リアラを口説きにかかっていたロニに関節技をきめていたナナリーは、突然倒れたジューダスを見て駆け寄った。
もちろん、抱えていたロニは勢いよく地面に叩き付けて。

「どうかしたのか?」

見えなくても何か異変を察知したのか、レイスも近付いてくる。

「いきなりジューダスがぶっ倒れちまって」
「症状は?」

ホープタウンにいる間も、レイスはナナリーにこうやって相手の様子を尋ねていた。ナナリーは慣れた風に答える。

「顔色は真っ青で、呼吸が浅くて速い……脈も……」

そこまで聞くと、レイスはジューダスの襟首を掴んでぐっと顔を近付け、

「お前、薬飲まなかったろ」

と言った。

「………」

沈黙で肯定を表すジューダスに、レイスは溜め息を吐きながらも荷物をあさる。

「ほら、解毒剤。俺のささやかなイタズラに気付いたのは褒めてやるけど、足手纏いはいらないからな」
「……………分かっている」

今度は素直に薬を飲んだ。二、三分もすると、途端に頬に血の気が戻ってくる。

「レイス、イタズラって、アンタ副作用が分かってて飲ませたのかい?」
「まーな。なんか面白そうだったし……酔ってなきゃ出てこない本音ってのもあるだろ」

レイスがそう言った時、ロニがいきなりジューダスの仮面を取ろうと手を延ばした。

「なぁ、ジューダスー。お前、キレーな顔してんだからちょっとは笑ったらどうなんだよぉー?」
「黙れ、酔っ払い!誰かれ構わず絡むなッ!!」

再び吹っ飛ばされるロニ。それを見てクスクス笑いながら、レイスは話を続けた。

「例えばロニの場合。どうしてアイツはナナリーにだけは絡んでこないのか」

現に今も、抱き付いてきたカイルの頭を撫でてあやしているところだった。

「そんなの……アタシが、女らしくないから……」
「単に技をかけられたくないからじゃないのか?」
「どうだろうな。答えはロニにしか……もしかしたら本人も分かってないかもしれないけど、俺は、ナナリーの事が本気だからじゃないかなぁ、って思ってる」
「本気……って、ええっ!!?」

途端に顔を真っ赤にして挙動不審になるナナリー。
レイスは、そろそろ進まないと中和剤の効果がきれるからと、酔っ払い達に声を掛けた。

「おい、そろそろ行くから、ちゃんとついて来いよ」
「「「は〜い」」」

約一名、少々キモいのも混ざっていたが、とりあえず華麗に無視する事に。
元気に返事をした後、カイルが駆け寄ってきて、再びレイスに抱き付いた。

「レイス〜、俺が手、つないであげるね!」
「はいはい、ありがとなカイル。ていうか絶対転ぶなよ、俺まで巻き込まれるから」
「……こいつの場合は何なんだ?」

そんなカイルを見て、ジューダスが尋ねてくる。レイスは、近くにナナリーがいない事を確認して、声を低めて言った。

「たぶん、親の愛に飢えてるってトコじゃないか」
「スタン、か……」

レイスは、小さく頷く。

「何となくだけど、きっと覚えてるんだよ。死んだ所を見てたらしいから」
「そう、か……」

すると今度は、リアラが腕にしがみついてきた。

「レイスっ……私、い、いらないって……」
「違う違う、カイルはただ知らなかっただけだから。リアラをいらないなんて言ってないだろ。泣くな泣くな」
「……うっ、ぐすっ、うん……」

そしてそのまま、カクリと力をなくしてもたれかかってくる。どうやら寝てしまったようだ。

「消え去ることへの恐怖、か……」
「ンなの誰だって怖いに決まってんだろ。しかもリアラの場合、終わりは死じゃない」

レイスは、小柄なリアラを片腕で抱き上げた。その光景はまるで、子供達に懐かれる父親、ならぬ母親のようである。

「そんな状態では戦えないだろう……」
「あの中和剤、モンスター避けの薬も入ってるから。ここらに出てくるくらいの弱っちぃのなら、絶対近寄って来ねーよ」

レイスのあまりの準備のよさに、思わず溜め息を吐くジューダス。

「ま、もし強いのが出てきたら頼むわ。中和剤飲まずに手間かけさせたお代ってことで」



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