3 リアラを口説きにかかっていたロニに関節技をきめていたナナリーは、突然倒れたジューダスを見て駆け寄った。 もちろん、抱えていたロニは勢いよく地面に叩き付けて。 「どうかしたのか?」 見えなくても何か異変を察知したのか、レイスも近付いてくる。 「いきなりジューダスがぶっ倒れちまって」 「症状は?」 ホープタウンにいる間も、レイスはナナリーにこうやって相手の様子を尋ねていた。ナナリーは慣れた風に答える。 「顔色は真っ青で、呼吸が浅くて速い……脈も……」 そこまで聞くと、レイスはジューダスの襟首を掴んでぐっと顔を近付け、 「お前、薬飲まなかったろ」 と言った。 「………」 沈黙で肯定を表すジューダスに、レイスは溜め息を吐きながらも荷物をあさる。 「ほら、解毒剤。俺のささやかなイタズラに気付いたのは褒めてやるけど、足手纏いはいらないからな」 「……………分かっている」 今度は素直に薬を飲んだ。二、三分もすると、途端に頬に血の気が戻ってくる。 「レイス、イタズラって、アンタ副作用が分かってて飲ませたのかい?」 「まーな。なんか面白そうだったし……酔ってなきゃ出てこない本音ってのもあるだろ」 レイスがそう言った時、ロニがいきなりジューダスの仮面を取ろうと手を延ばした。 「なぁ、ジューダスー。お前、キレーな顔してんだからちょっとは笑ったらどうなんだよぉー?」 「黙れ、酔っ払い!誰かれ構わず絡むなッ!!」 再び吹っ飛ばされるロニ。それを見てクスクス笑いながら、レイスは話を続けた。 「例えばロニの場合。どうしてアイツはナナリーにだけは絡んでこないのか」 現に今も、抱き付いてきたカイルの頭を撫でてあやしているところだった。 「そんなの……アタシが、女らしくないから……」 「単に技をかけられたくないからじゃないのか?」 「どうだろうな。答えはロニにしか……もしかしたら本人も分かってないかもしれないけど、俺は、ナナリーの事が本気だからじゃないかなぁ、って思ってる」 「本気……って、ええっ!!?」 途端に顔を真っ赤にして挙動不審になるナナリー。 レイスは、そろそろ進まないと中和剤の効果がきれるからと、酔っ払い達に声を掛けた。 「おい、そろそろ行くから、ちゃんとついて来いよ」 「「「は〜い」」」 約一名、少々キモいのも混ざっていたが、とりあえず華麗に無視する事に。 元気に返事をした後、カイルが駆け寄ってきて、再びレイスに抱き付いた。 「レイス〜、俺が手、つないであげるね!」 「はいはい、ありがとなカイル。ていうか絶対転ぶなよ、俺まで巻き込まれるから」 「……こいつの場合は何なんだ?」 そんなカイルを見て、ジューダスが尋ねてくる。レイスは、近くにナナリーがいない事を確認して、声を低めて言った。 「たぶん、親の愛に飢えてるってトコじゃないか」 「スタン、か……」 レイスは、小さく頷く。 「何となくだけど、きっと覚えてるんだよ。死んだ所を見てたらしいから」 「そう、か……」 すると今度は、リアラが腕にしがみついてきた。 「レイスっ……私、い、いらないって……」 「違う違う、カイルはただ知らなかっただけだから。リアラをいらないなんて言ってないだろ。泣くな泣くな」 「……うっ、ぐすっ、うん……」 そしてそのまま、カクリと力をなくしてもたれかかってくる。どうやら寝てしまったようだ。 「消え去ることへの恐怖、か……」 「ンなの誰だって怖いに決まってんだろ。しかもリアラの場合、終わりは死じゃない」 レイスは、小柄なリアラを片腕で抱き上げた。その光景はまるで、子供達に懐かれる父親、ならぬ母親のようである。 「そんな状態では戦えないだろう……」 「あの中和剤、モンスター避けの薬も入ってるから。ここらに出てくるくらいの弱っちぃのなら、絶対近寄って来ねーよ」 レイスのあまりの準備のよさに、思わず溜め息を吐くジューダス。 「ま、もし強いのが出てきたら頼むわ。中和剤飲まずに手間かけさせたお代ってことで」 [back][next] [戻る] |