もしもあのとき1
それは、ナナリー手作りの夕食を食べ終わって、どうやって過去に帰るかという話になった時だった。

「つまりだ。帰れるには帰れるけど、レンズの力が足りないと」
「ええ……(じーっ)」
「………」
「………?」

レイスは二方向からの視線を感じていた。そして、いきなりジューダスに腕をつかまれ、

「レイス、話がある」

逆の手をリアラに握られ、

「私も、聞きたい事があるの」

おそらく、二人の用件は同じだろうという事で、レイスは有無を言わさず外へと引きずり出された。

「な、おい何なんだよ、急に?」
「お前の力を使っても、過去には飛べないのか?」

ジューダスが、単刀直入に聞いてきた。

「はあ?何言ってんだ、俺には何の力も……」
「私、知ってるの。船を浮かせた時に助けてくれた力は、レイスのものだったんでしょう?」

しらばっくれる事は許さないというリアラの雰囲気に、レイスは言葉を詰まらせる。

「……もう誰も死なせたくないって、そう叫んでいたのが聞こえたの。あれは、レイスの声だったわ」

まさか聞こえていたとは思っていなかったので、レイスはつい苦虫を噛み潰したような顔になってしまう。

「僕たちはそれが分かったからと言って、お前を問い詰めたり疑ったりするつもりはない。ただ、あの後のハイデルベルグがどうなったのか分からない以上、一刻も早く元の時代に帰るべきだと思ったまでだ。そのためなら、使えるものは何でも使う」
「……俺を安心させてるのか不安にさせてるのか脅してるのかよく分かんねぇぞ、そのセリフ」

レイスは一つ溜め息をつき、とうとう観念したように話し始めた。

「確かに、船の中で俺は力を使ったのかもしれない。でも使ったのはアレが始めてだから、コントロールもきかないし、俺自身どうやったのかさっぱりわからん。むしろ、本当にリアラの助けになってたことだって今初めて知ったくらいだ……というワケで、意図的な時空間転移はできません。以上」

ジューダスは、そうか、とだけ呟き、リアラはまたも考え込む。

「とにかく、時空間転移をできるくらいのエネルギーを持ったレンズを探した方がいいと思うんだけど」
「それもそうだな」

そう言って中に戻ろうとした時、リアラがレイスの手を引いて止めた。

「どうした?」
「レイス、あなたは……」
「ねぇ、今カイル達と話してたんだけどさ……ってゴメン、取り込み中だった?」

中から顔を出したナナリーがタイミング悪くリアラの言葉を遮ってしまって、気まずい雰囲気が流れる。

「ううん、何でもないの……中に入りましょう」

リアラは、何事もなかったかのように戻ってしまった。

(ゴメンな、リアラ。聞きたい事は分かってるんだけど、俺は君の望む答えは持ってない。お前らとは同じじゃないんだ)

その夜、巨大レンズがあるという噂のあるカルビオラへと向かう事が決定した。



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