「……で、決着は着かなかったと」

二時間後、長屋で待っていたカイル達の元へ、くたくたになったジューダスとレイスが現れた。
どうも宿屋の女将さんもあの戦いを見ていたようで、喋れないほど息も切れ切れな二人に変わって戦いの行く末を語ってくれた。
つまるところ、引き分けだ、と。

「二人とも意外とバカだねぇ……」
「いいだろたまにはハメ外したって。俺だってまさかあそこまでお互いムキになるとは思わなかったんだ」
「僕はムキになってなどいない」
「はいはい、そういう事にしといてやるよ」

晶術までは使わなかったものの、村中を駆け回る規模で戦っていたのは事実。巻き込まれて怪我をする人も、器物破損もなかったのが幸いである。

「で、カイルと今までのことは話し合ったんだろ?」
「さすがに二時間もあったからな。そりゃもうたっぷりと。何でも、アイグレッテでは……」
「ストップ。大体の事はナナリーから聞いてたから知ってる」
「いつの間に?!」
「お前がいつも疲れてへばっている時だ。アイグレッテという街自体が、十年前に設立されたフォルトゥナ神団の管理下にあるのだろう?」

自分だけ知らなかったのか、と一人落ち込むロニを慰めるカイル。
レイスはふと、リアラが静かなのに気付いた。

「リアラ、どうかしたか?」
「えっ?な、なんでもないわ……」

ふーん、と言ってしばらく考え込んだレイスは、突然立ち上がると、手をパンッと鳴らした。

「さて、メシにするか。これからの事は食いながら話そうぜ」
「そうだね。じゃ、アタシんちにおいでよ。ごちそうするからさ」

仲間達がナナリーに促されて出て行く中、レイスはカイルを呼び止めた。

「何、レイス?」
「カイルは、神はいらないか?」

カイルは一瞬きょとんとした後、邪気のかけらもない純粋すぎる笑みを浮かべて、こう言った。

「うん、いらないよ」

いっそ清々しいほどのその答えに、同感しつつも胸が痛むのを感じずにはいられない。

「神様なんかいなくてもオレたちは生きていけるんだって、この世界のアイグレッテを見てよくわかった。それに、すごく嫌なんだ。あんな風に人間に番号付けて管理するなんて……」
「まるで飼われているみたい、ってか?」
「……いくらオレたちのためって言ったって、あんな風に“生かされる”くらいなら、神なんていらない。オレは、自分の足で歩きたいから」

話の対象がエルレイン、もしくはその背後にいる神だというのはわかっていても、レイスにはまるで自分が責められているように聞こえてしまった。

(人の幸せ、か……もう一度俺なりに考えてみたほうがいいのかもしれない)

砂漠の夜は、キンと凍るような寒さに包まれていく。



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