だが、やってきたのはジューダスが寝ていた宿屋。

「いやさぁ、様子見て来るっつったのに放置するわけにもいかないだろ」

そう言いながら、ロニの額のタオルを絞り直す。
まだ当分起きる気配はないようだ。

「……コイツに聞かれると困るのか」
「ご名答。正確にはお前に話してるのを気付かれるとマズい」

宿を出たレイスが、あっち、と、かなりアバウトに指差した方へと手を引いていけば、そこには小さな墓地があった。不揃いな墓石に、一生懸命掘ったのだろう拙い文字。手向けられる花はどれも鮮やかで、誰かが頻繁にここを訪れているのだとわかる。

「……知人の墓でもあるのか?」
「ないな。ここに来たのは単に、人目を避けただけ。真夜中の墓地に近寄る奇特な人間はそうそういないだろ」
「ここに既に二人ほどいるが」
「これはノーカン。ま、長引かせるのも何だから結論からいこう……四英雄のスタン・エルロン、死んでるんだとさ」

レイスには小さく息を飲む音しか聞こえなかったが、ジューダスはこの夜闇でもはっきりとわかるくらいに顔を青褪めさせた。

「……デマ、という可能性は?」
「死んだその瞬間に立ち会った人間の口から、直接聞いたもんでね」
「ロニ、か」

レイスは、静かに頷く。

「カイルもいたらしいんだけど、アイツは知らない。幼かったし、ショックが大きすぎて忘れてるんじゃないか、って。ルーティ・カトレットは……夫婦なんだ、おそらく知ってるだろ」

その後はどちらも声を発する事なく、静寂が辺りを包み込む。
しばらくして、口を開いたのはジューダスだった。

「……なぜ、僕に話した。息子であるカイルも、英雄を探すリアラも知らない事を、全く関係のない僕なんかに」
「あの二人に教えるのはまだ早いと思った。ロニも、心の整理がついたらちゃんと話すっつってたから、伝えるのは俺の役目じゃない」
「意外と弁えてるじゃないか」
「いつもお節介で悪かったな。あとお前に話したのは……俺達が、スタンを殺した犯人と会っているからだ」
「何だと!殺された!?」

思わず声を荒げてしまったジューダスに夜中だから静かにしろと、落ち着かせる。
そして、犯人の名を告げた。

「よく吠えるむさ苦しい全身筋肉青色ワカメに、さ」

間。

「……………………………バルバトスか」
「あ、分かった?」
「生憎とその特徴に当てはまる人物を一人しか知らない」

呆れた視線を向ければ、見えていないだろうに小さく肩を竦めておどけるような仕草をするレイス。

「改めてあのワカメが危険人物であり、俺たちの敵であることを認識しておいてほしい。直接害はないから見逃す、なんて甘い事は言ってられない。次に会ったら、確実に殺る気で仕留めるぞ」

これまで対峙してきた中で、レイスとバルバトスの間には何か因縁めいたものがあるのは気付いていた。
レイスにとっては英雄殺しとはまた別で、バルバトスを倒さなければ済まない何かがあるのでは。そう思わずにいられない。

「疑問は尽きないが、どうせ尋ねたところではぐらかすんだろう?」
「悪いがお察しの通り」
「……なら、一つだけ。なぜお前はスタンの死の真相を知っているんだ」
「………」
「言いたくなければ別に構わん。隠し事があるのはお互い様だからな」

その言葉が、昔シデンの森で言われた事と似ていて、レイスは小さく、ありがとうと呟いた。


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