その微笑みが1
あの後、商人からちゃっかり報酬を巻き上げ、タイミングよく修理の終わっていた船に乗り込んだカイル達。 レイスはいつも通りジューダスと同室で、ベッドの上に仰向けになって寝転んでいた。

「さすがにもうあんなモンスターは襲って来ねーよな」
「船に乗るたびに襲われてたまるか。命がいくつあっても足りないだろう」

そう言うと、ジューダスは部屋から出て行ってしまった。

「………はぁ」

廃坑を出たくらいから、妙な気怠さを感じていた。レイス自身その原因には見当がついているが。

(あの機械に触ってから、だな……)

ジューダスが言ったように、あのタンクの中は確かに空っぽで、レイスは一枚もレンズを持ってはいなかった。
いや、あると言えば。

「あー、無理だ。じっとしてたら意識なくなりそう」

そのままベッドから飛び起き、風にでもあたろうと甲板に出る事にした。

(どうせ今頃口論してんだろうし)

案の定、外に出るとロニの怒鳴り声が響いてきた。

「……単に年の話をしていただけで、どうして疑うとかってことになるんだよ!!」

レイスは、呆れつつもその声の方に近付いて行った。カイルがいれば丸くおさまるのは分かっていたが、もしも、という事がある。
だが、次に聞こえてきた言葉を聞いた途端、レイスの中で何かがキレた。

「正体不明、本名も名乗らねぇ、しかも年も教えないだと?そんな奴、信用できるか!!」

反射的にロニの元へ駆け出し、力の限り殴り倒した。
しかもグーで。

「……な、レイスっ!?」

他の仲間達が呆然とする中、床に尻餅をついたロニの胸倉を掴みあげる。らしくなく、手元が震えていた。

「……てめぇ、何様だよ。秘密があったら仲間じゃないのか?隠し事があったら友達じゃないのか?」

声を荒立てない分、その纏っている雰囲気から、レイスがどれほど怒っているのかが窺い知れる。

「言いたくないことの一つや二つあるのは、リアラもお前も一緒だろ。それでも信頼してもらうために洗いざらい吐けって言うんなら……ここでサヨナラだ」

そう言うと、レイスは来た道を足早に戻って行った。最後に、懐かしんでいるような、悲しんでいるような声でこう呟いて。

「昔、一緒に旅をしてた奴らは……俺が何も話さなくても、仲間だから信じてるって言ってくれた」
「あ……」
「状況も違うし、お前らにそっくりそのまま同じ事を求めたりはしない。でも……俺が期待しすぎてたのかな。残念だわ」

レイスの遠ざかる後ろ姿を見送って何ともいえない沈黙がおりる中、最初に口を開いたのはロニだった。

「あの、よ、ジューダス……悪かったよ……」
「……いや、いい。それよりもお前、後でレイスに謝った方がいいんじゃないか」
「何で後なんだ?今すぐ行った方が……」
「アイツの頭が冷えるまで待った方がいいだろう。でないと顔を合わせた瞬間にまた殴られるぞ」
「確かに……」

ロニは座り込んだまま頭を抱える。その頬は随分と腫れていて、リアラは晶術を唱えた。

「……ねえ、レイスは何であんなに怒ったんだろう?」
「そう、だな……まさか俺も殴られるとは思わなかったし……」

これまでの旅の中で知ったレイスという人物は、ふざける事もよくあるが、強くて、優しくて、冷静で、常に一歩引いたところで事態を見つめる大人な存在だった。

「前に言ってた、もう誰も死なせたくない、っていうのに関係あるのかしら……」
「あいつは仲間を……」

その時、ずっと黙っていたジューダスが言葉を発し、視線が集まる。

「昔、共にいた仲間を……死なせてしまったそうだ……」



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あきゅろす。
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