「すっごいよ、二人共!ホントに優勝しちゃうなんてさ!!」

あの後の戦いは、案外あっけなく終わってしまった。二人は宣言通り無傷で勝ち抜き、優勝を果たしてしまったのだ。

「こりゃ、俺達がいっつも弱いって言われるわけだぜ」

ふと思い出したように、レイスは手に持っていた袋をカイルに差し出した。

「ほら、賞金」
「ええっ?!そんなの受け取れないよ!だってこれはレイスとジューダスが……」
「別に気にすることないさ、元々その為に出たんだから。な、ジューダス?」
「……僕は金が欲しくて出たわけじゃない。お前が必要だというなら勝手にすればいいだろ」
「ほんっと素直じゃねぇな……ま、そういうわけだから。遠慮せずもらっときな」
「……うん。ありがとう!!」

その時、いかにも怪しげな商人がカイル達に声を掛けてきた。

「すいません、よろしいですか?先程の試合、大変感動いたしまして……」

いかにも腹の中で何か企んでいますと言わんばかりの声に、レイスは自然と顔をしかめてしまう。

「お仲間の皆さんも相当な実力の持ち主かと……」
「へへっ、参ったなぁ。英雄としてのカンロクみたいなのがこう、自然に出ちゃうってカンジ?」
「おお、感じます、感じますとも!いかにもといった勇ましい顔つきをされておられる。……ところで、英雄の皆様に折り入ってお願いがあるのですが……聞いてはいただけませんでしょうか?」

どう見ても怪しい商人の下手なおだてに、ロニもジューダスも、リアラまでもが訝しげな目を向ける。
だが、カイルは一向に気付かないようで、

「OK、OK!何でも言ってよ!英雄カイル様が、ひょひょいっと片付けちゃうから!」
「まぁ、ここでは何ですので、どうぞ私どものあばら屋にでも……」

安易に了承し、先導する商人の後に着いて行ってしまった。それをロニが咄嗟に引き止める。

「おい、カイル!本気か?」
「もちろん!困ってる人を助けるのが、英雄の仕事だろ?さ、行こうぜ!」

そう行って駆け出す自称英雄の少年に、大きく溜め息をついてしまった。

(少しだけ変わったな……まさか闘技場で声かけられるとは。もしかしてあの商人、港からずっと俺達の事つけてたのか?それにしても、こう知ってる展開と違う場面に遭遇する度にハラハラしてちゃあ、運命を変えるなんて大それた事、言ってらんないな……)

「どうしたの、レイス?」

どうやらかなり長い間思考に耽っていたらしい。それでも足はちゃんとカイル達に着いて行っていたようで、気付けば。

(ここ、イレーヌの……)

十八年たって町並みは変わっても、その屋敷の雰囲気は相変わらずのようだ。

「悪い。ボーッとしてただけだから」
「そう?じゃあ行きましょ。カイル達、もう中に入っちゃったの」

リアラに手を引かれ、レイスも屋敷の中へと足を踏み出した。



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あきゅろす。
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