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深夜、静まり返った室内で、焚き火の明かりに照らされるカイルを見て、ジューダスは苦笑を漏らした。
「……まったく、よく眠る。アイツにそっくりだ」
『本当ですね。さすがはスタンの血を引いてるだけありますよ』
独り言で終わらせるつもりだったのが、相槌をうつ声が聞こえて、ジューダスは思わず眉間に皺を寄せた。
「……シャル?まずいぞ、あいつらがいる前で……」
『大丈夫ですって。皆よく寝てますし。それにここ最近はずっと話せなくって、退屈なんですよっ』
確かに、リーネを出たくらいから、シャルティエはほとんど声を発していない。
野営では常に近くに誰かがいて、その野営の時でさえレイスが起きていたためでもある。
ジューダスもシャルティエの気持ちが分ったのか、溜め息を吐きながらも、マントの下から背中に背負っていた剣を取り出した。
「……少しだけだからな。しかし、お前もそう思うか?アイツにそっくりだと」
『見た目もそうですけど、中身もかなり似てるんじゃないですか?ただ、思考が少しだけスタンより幼いだけで』
スタンの名を出され、ジューダスは苦い記憶を思い出した。
薄暗い洞窟、肉を貫く剣の感触と流れ落ちる血、そして。
「スタン、そしてカイル。運命とは皮肉なものだな……」
『坊ちゃん……』
(このまま僕やリアラと旅を続ける限り、カイルは、あの女の馬鹿げた思想と妄想に突き当たるはずだ。だから、今度こそ)
「僕は、この旅であいつを……カイルを……」
「……どうした?ジューダス」
その時、眠っていたとばかり思っていたロニが体を起こしているのを見て、とっさにシャルティエをマントの下に隠した。
「……なんでもない。寝ていろ」
だが、その言葉に反してロニは立ち上がって辺りをキョロキョロと見回す。
「誰もいない、よな?なんか、カイルをどうこうって聞こえたんだけどよ……」
「何でもないと言っている!」
聞かれていた事に思わず動揺してしまい、自然、声は大きくなる。
そんなジューダスの様子に、訝しげな表情をするロニ。
「……ジューダス、一つだけ言っておくぜ。お前がどんな目的で俺達と一緒にいるかは聞くつもりはねぇ。だがな、もしカイルに害が及ぶような事をしてみろ。その時は……!」
「……熱心なことだ。そうして保護者気取りをいつまで続けるつもりだ?お前はそれで満足だろうが、そうやってカイルを甘やかしているいる限り、あいつは成長しない」
「てめえ……!何様のつもりだ!!俺はな、お前なんかよりもずっとカイルの事を……!!」
見てきた、側にいてやった。父親のように。
それが、ロニが自身に架した義務だったから。
「……ロニ?」
言い合う二人以外の声が聞こえて、思わずそちらを振り返る。
「あ、ああ、リアラ。起こしちまったか?悪ぃな、何でもねぇんだ」
「……ウソ。だってロニの顔、すごく強張ってる」
「いや、その……」
「カイルの事ね?ロニがそこまで怒るのってカイルの事だけだものねぇ、何があったの?」
「……ホントに、何でもねぇんだ」
あくまでもはぐらかそうとするロニに、リアラもつい声を荒げる。
「何でもないわけないじゃない!!だってロニ、今にも殴りかかりそうだったし、」
「何でもねぇよ!!」
つい怒鳴ってしまい、室内は嫌な沈黙に包まれる。
その時、いきなりカイルの呑気な声が響いた。
「リアラぁ〜」
驚いてそちらを向くが、カイルは未だ布団に突っ伏したまま。
「……ずっと、一緒に……」
それが寝言だと分かって、ほっと肩の力を抜いた。
「……ロニも……ジューダスも……レイス、も……一緒、だ……へへっ……」
よほど幸せな夢を見ているのか、カイルは満面の笑みを浮かべていた。
「カイル……」
きっとカイルにとっての幸せは、仲間と、共にいる事。
「……おい、ジューダス」
「何だ?まだ何か言いたいのか?」
そんなジューダスの態度に苦笑しながらも、首を横に振るロニ。
「……寝ろや。見張り、交代してやるよ」
「お前……」
「あいつの寝言聞いてたらどうでもよくなっちまったよ。ったく、カイルの奴め!」
そうやって冗談めかそうとするから、ジューダスもそれにのる。
これ以上口論を続けた所で得られるものは何もない。ならば、体を休める方が得策だから。
「……フッ。では休ませてもらおう」
そう言って奥へ行き、壁を背にして座り込んだ。もちろん、仮面は外さないまま。
(よっぽど顔を見られたくない、ってか?)
そんなことを思っていると、振り返ったリアラがこちらを向いて、何か言いたそうにしていた。
「あ、あの、ロニ……ごめんなさい!その、さっきのことヘンに問い詰めちゃって……」
「……悪いのはこっちだ。気にすんなって。いいから、少しでも寝とけ。これからまた、うんざりするほど歩くんだからよ」
「……うん、お休みなさい」
リアラが布団に戻りしばらくした頃、ふいにジューダスが小声で話しかけた。
「……起きているんだろう?」
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