早朝の靄がかかる中、リーネの村の門の前でレイスは一人、空を見上げていた。

「何を見ている」
「何も見えてねえよ。ただ、空気がきれいだなーって」

(コイツ、意外としょっちゅう俺に話しかけてくるな)

正体不明の不審人物など、彼の性格からすればすぐに切り捨ててしまいそうなものだ。
だが気付けばジューダスは、レイスの近くにいる事が多かった。現に今も一緒にいる。

「お前、いつも朝は早いんだな」
「まあね。カイルとは違って寝起きはいい方だし……昨日はイイ話聞かせてもらったしさ」

昨晩、憬れる父親の故郷に来て興奮のあまり寝付けないカイルにスタンの昔話をしていたロニ。

「自分と相手を信じ続けるんだ。時には裏切られたり、悲しい目に合ったりするかもしれない。それでも相手を信じ、相手を信じた自分を信じろ。そうしたら、最後はきっとうまくいく。か……」
「よくそれだけ覚えたな」
「スタン・エルロンっていいこと言う奴だなーと思ったら、自然と」

スタンという人間を知っている者からしても、確かに彼が言いそうなセリフだった。
シェイドが憬れた、強い心をもつ彼なら。
その時、家の中からけたたましい騒音が鳴り響いた。死者も目覚める秘技が発動したようである。

「うっわ、本家本元はすげえな。家の中にいなくてよかった」

もう朝食の用意ができているのだろうと、レイスは来た道を戻ろうとする。が、ふいにその腕を掴まれた。

「……お前は、なぜ殺したんだ?」

あまりに突然すぎる、脈絡のない問いに、レイスは一瞬動きを止めてしまった。

「……あー、こないだの?」
「あれからずっと考えていた。どんな状況下なら、お前は相方を殺すのか、と」
「意外だな。俺の事とか興味ないと思ってたのに」
「たいして興味があるわけでもないが、あんな言われ方をすれば気にもなる」
「ははっ、それもそうか」

レイスは、再び空を見上げた。

「アイツのことは信じていた。アイツを信じる自分も信じてた。でも……自分自身を信じられなかった」

いるはずのない人間だからと、シェイド自身の存在を否定し続けた。
その結果が、これだ。

「ってとこかね。ちなみに、詳細教えるつもりはないから」
「……納得できるか、そんなので」
「まあ、心配なら見張っとけばいいよ。何言ったところで信用できないだろうし」
「信用してもらえるように言葉を重ねるつもりは?」
「ない」
「はぁ……」
「気を配らなきゃいけないとこだらけで大変だなぁ、ジューダス」
「お前もその一因だろうが。僕はいつから保護者になったんだ……」
「頑張れ、精神年齢最年長」

そう言って笑いながらレイスは家の方向かう。レイスの姿が見えなくなったところで、ジューダスは再び一つ、大きな溜め息をついた。

『幸せ、逃げちゃいますよ』
「うるさい。全く……レイスの言っている事はさっぱりわからないな」
『坊ちゃんは型にあてはめて考えようとするから』
「お前はどういう意味か分ったのか?」
『漠然と、ですけどね。うまく言葉には言い表せませんが……』

ジューダスはもう一度大きく溜め息をつき、自分も家の方へと戻っていった。


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