2 「リリスおばさん、シェイドさんってどんな人だったの?」 カイルはやはり英雄と呼ばれる人物の事が気になるのか、話を聞きたがっている。 「私も会った事はないからどんな人なのかは知らないの。でも、兄さんが言うには……母親みたいな人だったって」 「母親、ですか?」 「もちろん、シェイドさんは男性の方よ?たぶん兄さんは、包容力がある人だって言いたかったんじゃないかしら。……今では慈愛に溢れた五人目の英雄、なんて呼ばれているけれど、あの騒乱が起こってすぐの頃は、リオンさんと同じように裏切り者扱いされていたの」 リリスの言葉に、僅かに反応を示すジューダス。 だがそれに気付いたのは、気配に聡いレイスだけだった。 「でもね、兄さん達は必死になってそれを否定したわ。リオンもシェイドも裏切ったんじゃない、って。ずっと訴え続けて、リオンさんの誤解を解く事はできなかったんだけど、シェイドさんは五人目の英雄として名前を残すことになったの」 「そう、だったんだ……」 レイス自身、この話を初めて神官に聞いた時は驚きだった。 (俺も実際は、裏切り者と呼ばれてもおかしくはない立場なんだけどな……あのお人好しどもめ) 「それにしても、どうして慈愛なんですかね?」 「ふふっ、それはね……」 「その話は俺も聞いたぞ、神殿で」 この話をあまり突っ込んでして欲しくはなかったので、レイスはリリスの言葉を遮るようにして答えた。 「何の記録も残っていないシェイド・エンバースのことを、四英雄を始めとする関係者に聞いてみたら、全員の印象が一致したらしい。スタン・エルロンが言ったみたいに母親みたいだったとか、慈愛に満ちた人だったとか」 レイスの説明にふーんと納得するカイルとロニとリアラ。 そこでリリスが立ち上がり、パンッと手を鳴らした。 「さ、夕ご飯の支度しなくちゃ。カイル、折角だから村の皆にも色々聞いてみたらどう?きっと面白い話が聞けるはずよ」 「え、でも……」 そう言ってチラリとリアラとレイスの方を見る。 「俺らは大丈夫だって。いいから行ってこい」 「心配しないで、カイル」 そう言われ、カイルは満面の笑みで頷き、外へと飛び出して行った。続いてロニも立ち上がる。 「さぁーて、俺もこののどかな村で新しい出会いを見つけるとするか」 「行ってこいふられマン。頑張って玉砕しろよ」 「うるせえ!先行き不安になるようなこと言うんじゃねえよ!」 「……少しは静かにできないのか」 「いいじゃねえか、元気ありあまっててさ。お前が年のわりに老けすぎてるんだよ。さて、俺はメシできるまでもう一眠りするかな」 ぐっと伸びをすると、レイスも部屋に戻ってしまった。 「レイスさんって物知りね。でも、さっきの話にはオマケがあるのよ」 残っていたジューダスとリアラに向かって、リリスはいたずらっぽく微笑んだ。 「シェイドさんはすごく綺麗で、女性のような顔立ちをしていたから……本当は、慈愛の女神として広まっていたの。本人が知ったら嫌がるだろうなって、いっつも兄さん言ってたわ」 [back][next] [戻る] |