「リリスおばさん、シェイドさんってどんな人だったの?」

カイルはやはり英雄と呼ばれる人物の事が気になるのか、話を聞きたがっている。

「私も会った事はないからどんな人なのかは知らないの。でも、兄さんが言うには……母親みたいな人だったって」
「母親、ですか?」
「もちろん、シェイドさんは男性の方よ?たぶん兄さんは、包容力がある人だって言いたかったんじゃないかしら。……今では慈愛に溢れた五人目の英雄、なんて呼ばれているけれど、あの騒乱が起こってすぐの頃は、リオンさんと同じように裏切り者扱いされていたの」

リリスの言葉に、僅かに反応を示すジューダス。
だがそれに気付いたのは、気配に聡いレイスだけだった。

「でもね、兄さん達は必死になってそれを否定したわ。リオンもシェイドも裏切ったんじゃない、って。ずっと訴え続けて、リオンさんの誤解を解く事はできなかったんだけど、シェイドさんは五人目の英雄として名前を残すことになったの」
「そう、だったんだ……」

レイス自身、この話を初めて神官に聞いた時は驚きだった。

(俺も実際は、裏切り者と呼ばれてもおかしくはない立場なんだけどな……あのお人好しどもめ)

「それにしても、どうして慈愛なんですかね?」
「ふふっ、それはね……」
「その話は俺も聞いたぞ、神殿で」

この話をあまり突っ込んでして欲しくはなかったので、レイスはリリスの言葉を遮るようにして答えた。

「何の記録も残っていないシェイド・エンバースのことを、四英雄を始めとする関係者に聞いてみたら、全員の印象が一致したらしい。スタン・エルロンが言ったみたいに母親みたいだったとか、慈愛に満ちた人だったとか」

レイスの説明にふーんと納得するカイルとロニとリアラ。
そこでリリスが立ち上がり、パンッと手を鳴らした。

「さ、夕ご飯の支度しなくちゃ。カイル、折角だから村の皆にも色々聞いてみたらどう?きっと面白い話が聞けるはずよ」
「え、でも……」

そう言ってチラリとリアラとレイスの方を見る。

「俺らは大丈夫だって。いいから行ってこい」
「心配しないで、カイル」

そう言われ、カイルは満面の笑みで頷き、外へと飛び出して行った。続いてロニも立ち上がる。

「さぁーて、俺もこののどかな村で新しい出会いを見つけるとするか」
「行ってこいふられマン。頑張って玉砕しろよ」
「うるせえ!先行き不安になるようなこと言うんじゃねえよ!」
「……少しは静かにできないのか」
「いいじゃねえか、元気ありあまっててさ。お前が年のわりに老けすぎてるんだよ。さて、俺はメシできるまでもう一眠りするかな」

ぐっと伸びをすると、レイスも部屋に戻ってしまった。

「レイスさんって物知りね。でも、さっきの話にはオマケがあるのよ」

残っていたジューダスとリアラに向かって、リリスはいたずらっぽく微笑んだ。

「シェイドさんはすごく綺麗で、女性のような顔立ちをしていたから……本当は、慈愛の女神として広まっていたの。本人が知ったら嫌がるだろうなって、いっつも兄さん言ってたわ」



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