聖女の奇跡1 乗客乗員全てを甲板に集めたものの、状況を改善させる術はないにも等しかった。恐慌状態に陥った何人かがヒステリックに騒ぎだしたりと、むしろ事態は悪化する一方である。 「これからどうすればいいんだ……」 「ねえ、岸まで泳げないかな?」 「男はともかく、女子供は無理だ」 「救命ボートがあの大きさじゃあ、ほとんど助けられないか……クソォッ!完全に手詰まりかよ!!」 何とかならないものかと悩むカイル達を横目に、レイスは一人その場から離れた。去り際、その耳に届いたのはカイルの力強い声。 「あきらめちゃダメだ!何とかして、皆が助かる方法を考えようよ!!」 (諦めない、か……) 自嘲的な笑みを浮かべる。 なぜならレイスは、いや18年前のシェイドは、何かしようと足掻く前に諦めてしまった人間だった。 シェイドにはない強さ。 それをカイルも、スタンも、他の仲間達も皆持っている。 (俺は弱かった……剣の強さとか強力な晶術より、何にも揺るがない心の強さが欲しかった) その時船がガクンと揺れ、波ではない不思議な力に動かされているのを感じた。 (始まった……!) 沈んでいっていたはずの船体が止まり、明らかに浮き上がろうとしている。だがその力はとぎれとぎれで、不安定で。 (俺は、今度こそ諦めたくない……頼むよ、リアラ……もう誰も死なせたくないんだ……!) シェイドは、祈るように胸元でギュッと手を握り合わせた。 [back][next] [戻る] |