しばらくは二人とも言葉を発する事なく、静かに時が過ぎていった。
どのくらいたったのだろう。突然船を大きな衝撃が襲い激しく揺れた。

「何だ!?」
「噂のヌシとやらが来たのかもな。無茶苦茶でかいモンスターの気配がするわ」

レイスは自分の剣を掴んで船室を飛び出した。が、激しく揺れる船内を進むのは視界がゼロなレイスにはなかなか厳しいものがあった。駆け出すこともできずに壁伝いに進んでいると、ぐっと強く手を引かれる。
覚えのある、細くも骨ばった指先。ジューダスだ。

「悪い。さっそく足引っ張った」
「それが嫌なら知識でカバーしろ。主とやらのことを知っているのか?」
「アイグレッテからハイデルベルグまでの航路に、デビルズ・リーフっていう魔の暗礁地帯がある。時間的に、今いるのがそのあたり。で、もともと座礁しやすいとこなのに、いつからかフォルネウスっつーかなりデカいモンスターが住み着いたらしい」
「それが今、この船を襲っているというわけか」
「おそらくな。ただ座礁しただけでここまで揺れないだろ」

ジューダスの先導で船の甲板へと辿り着いた。船首にとりついているのは、ウネウネとした三体の巨大な蛇のようなモンスターだ。

「まずいな、上がってきている……」

ジューダスが言う通り、モンスターは徐々にこちらと距離を縮めてくる。

(本体は船底にいたはず……でもまだ船に穴空けられてないから、姿が見えなきゃ攻撃のしようがない)

「おい、来るぞ!」

その声に考えを中断して、咄嗟に横に跳びのく。レイスの立っていた所に、高圧力の水の玉が何発か打ち込まれた。あれに当たればただでは済みそうにない。

「なあ、ジューダス。ちょっと説明してるヒマもないくらいに時間がないからさ、少しだけアレがこっちにこないように引きつけといてくれないか?」

レイスがさっきとは違って真剣な雰囲気を出しているので、ジューダスは了承とばかりに斬り込んで行った。
その気配を確認して、レイスは胸元のミスティシンボルに意識を集中させる。
甲板はだいぶ混戦している。味方や乗客を巻き込まないようにするとなると、狙うのは船の外側しかない。

「恐怖と共に消えよ、鳴け、極限の嵐!……『フィアフルストーム』!!」

渦巻く風が刃となり、フォルネウステイルの根元を切り裂いていく。だが一撃では倒しきれなかったのか、未だその動きは止まる気配を見せない。
レイスは続けて次の詠唱に入った。

「風の精『シルフィスティア』!舞い降りし疾風の皇子よ、我らに仇なす意思を切り裂かん!」

晶術で起こった風がさらに威力を増し、高速で敵の体を切り刻んでいく。最後にひときわ大きく吹き上がり、風が止んだ後には、そこにいたモンスターは影も形もなかった。
その時、ようやくカイル達が駆け付けてきた。

「二人共!何が……」

だがレイスは、そちらには見向きもせずに走り出した。ジューダスもそれに続き、カイル達も戸惑いながらも追いかけた。



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