海の上の戦い1 「そういや、これからどこに向かうんだ?」 アイグレッテ港に着いて、まず最初に口を開いたのはレイスだった。 「ハイデルベルグだよ。ウッドロウ王に会いに行くんだ」 「ウッドロウ?何でまた」 「そっか、レイスは知らないんだよね。リアラは四英雄の話を聞いて回ってるんだよ」 「私の目的は英雄を探す事だから……」 英雄ねえ、と一人呟くレイスを僅かばかり不思議に思いながらも、ジューダスはカイルにチケットを買いに行った方がいいと促した。ロニもそれについて行き、そこに残されたのはリアラ、ジューダス、レイスの三人。 「……ねえ、レイス。あなたは、何の為に大神殿へ?」 リアラが真剣な表情でレイスに問いかけた。 「知識欲を満たす為、って理由じゃダメなのか?」 「ただの知識欲で、目の見えない人が三日も神殿に通い詰めるとは思えないの。あなたには何か目的があるんじゃない?」 拒否する事を許さないと言わんばかりの声音に、レイスは苦笑する。 「目的って、別にそんな大層なモンは掲げてないよ。ただ……そうだな、あえて言うなら」 ひとつ間をおいて答えた。 「皆を幸せにすること、かな」 リアラは再び何か問い掛けようとするが、タイミング悪く帰ってきたカイルを見て口をつぐむ。 結局話は先に続く事なく、船に乗り込むこととなった。 「船内では、各々自由行動でいいよな……じゃ、そういうことで!」 船室に荷物を置いた途端、ロニがそう言って部屋を出て行こうとした。 「あ、どこ行くの?ロニ」 ふと呼び止めたカイルの肩に手を置き、ロニはしみじみと話し出す。 「カイル……お前は知らないだろうから教えといてやる。旅というのは、人を開放的な気分にさせるものだ」 よく分からないながらも、カイルは頷く。 「行きずりの恋人達……ただ一度の逢瀬……だが次がないからこそ、恋の炎は激しく燃え上がるんだ。わかるか?」 「……つまりロニは、ナンパしに行くんだね?」 「そして手応えもなくフラれる、と」 「うるせー!手応えもなくなんて言うなっ!!俺は今日こそ、運命の出会いを果たすんだ!!」 言うだけ言うと、ロニは飛び出して行ってしまった。 「結局、何が言いたかったんだろう?」 「カイルはリアラでも誘って楽しく船旅を満喫してこい、ってことじゃないか?」 レイスがそう言うと、カイルは顔を真っ赤にさせ、やはり部屋を飛び出して行った。 「全く……所構わず騒がしい奴らだ」 ジューダスも出て行くのかと思いきや、部屋のベッドに座り込み仮面を外したようだ。 「あれ、お前は外に行かないのか?」 「船内のあちこちにあんなのがいると思うとゆっくり考え事もしてられない。ここにいる方がよっぽど静かだ……お前こそ、風に当たったりはしないのか?」 レイスも備え付の椅子に腰掛け、足を組みながら背筋をそらして天井を見上げる。といっても、顔を上向けただけだ。レイスの瞳には何も映らない。 「空が……」 「空?」 「……空が、見えないからな。外に出てもつまらない」 船室の薄汚れた天井も、大海原の上に広がる空も、今のレイスにとってはただの暗闇でしかなかった。 [back][next] [戻る] |