2 『坊ちゃんがあんな事言うなんて珍しいですね』 マントの下に背負ったシャルティエが興味深げに声を掛けてくる。 ジューダス本人も、どうしてあんな風に思ったのかはわからない。ただ直感的にレイスという人間ならそう考えるだろうと感じただけである。 ついさっき会ったばかりの、しかも素姓も知れないような相手だというのに。 疑問に思いながらも、その得体の知れない人物がいるであろう部屋の扉を開く。が、あてがわれたはずの二人部屋は見事に無人だった。 ただ、片方のベッドの脇にレイスの物であろう荷物が置いてあるだけ。 『窓、開いてますよ』 シャルティエにそう言われ、まさかと思いながらも外を覗くと、 (いた……) 屋根の上から、誰かの足が見えていた。 「目が見えないやつがそんな所に上るな。落ちて怪我でもされたら迷惑だ」 「平気だって。お前も来るか?」 「断る。暗くなる前にとっとと降りろ」 「いや、俺の世界常に暗いから。日が暮れても問題ないんだなー、これが」 「………」 笑うに笑えない冗談だったため、ジューダスは押し黙ってしまう。 レイスは、身軽に屋根から飛び下りて、部屋に入って来た。 「軽く笑ってくれりゃいいのに。目が見えなくて得することもあるんだから」 「……そんなものがあるのか」 「ジューダスが仮面を取っても、俺には顔が分からない」 レイスは悪戯っぽく笑って、そう告げた。 「顔を隠したいから仮面を付けてるんだろ……まあ、個人的なご趣味とかなら俺には何も言えないが」 「趣味じゃない」 「そこは即答かよ」 ははっ、と声を出して笑い、自分のベッドに仰向けに倒れ込む。 「だからさ、俺と同室の時くらいは素に戻っちまえよ。誰か来てもお互い気配には敏感だろうからすぐに気付くし、俺の事は存在ごと無視しててくれりゃいいから」 「………」 「俺は盲目のハンデを助けてくれる人がほしかった。お前はカイルたちが心配だった。俺らの間に会話なんて必要ないだろ?同じパーティにいる赤の他人ってことで。ま、よろしくな」 しばらくして、レイスの耳にカタンと何かを置く音が聞こえた。おそらくジューダスが仮面を取ったのだろう。 だがレイスは特にそれについては何も言う事なく、そのままカイルが夕飯だと呼びに来るまで、眠るでもなくただぼーっと仰向けになっていた。 [back][next] [戻る] |