「あの……できればあなたにも、一緒に来て欲しいの」
「へ?」
「あなたの晶術を見て私、自分がまだまだだなって思ったわ。だから、一緒に来てくれると心強いかなって……」

声があまりにも真摯で、シェイドは言葉に詰まった。女の子にここまで懇願されて断り切れるほど、非情にはなれない。

「確かに。アンタ、あのバルバトスって奴と互角にやりあってたからな」
「……そこのジューダスだって相当に強いと思うぜ。あの時、あのタイミングで助けがなかったらかなりヤバかったんだ」

そうはぐらかすも、カイル達には通じない。

「ねえ、俺達と行こうよ!女の子がリアラ一人じゃ可哀相だし」

その言葉に、ピタッと動きを止めるシェイド。思わず頭を抱えてしまった。

「あー、あのな、俺」
「……そいつは、男じゃないのか?」

そのセリフに、カイル達とシェイドは驚いてジューダスを振り返る。

「……違うのか?」
「そう、だけど……うん、そう。俺、男なんだわ」
「ええっ!?全然分かんなかった……ご、ごめんね?」

シェイドは首を振り、苦笑を浮かべる。

「いいって。それでなくても間違われるのに、ただでさえ紛らわしい服着てる(らしい)から。ってか、ジューダス。よくわかったな?」
「……別に。ただ、昔……知り合いによく女に間違われる奴がいたから、身体つきや動作はよく見るようになっただけだ」

そう言って顔を逸らしたジューダスの声からは、シェイド以外には分からないだろうが、過去を悼むような雰囲気が伝わってきた。
よく女に間違われていた知り合い。そんなのシェイドくらいしかいない。
悲しませているのだろうか。
気に病ませているのだろうか。
後悔、させてしまったのだろうか。

「……やっぱ俺、一緒に行くわ」
「ほんと!?」
「ああ。一人旅じゃ色々不便な事も色々あって、どうするか悩んでたんだ。色々迷惑かけるかもしれないが、それでもよかったら連れてってくれないか?」
「俺たちは気にしないよ!ねっ、ロニ!」
「ああ、助けがいる時はいつでも言ってくれよな」

どうやら快く受け入れてもらえたようで、シェイドはホッと一息ついた。

「じゃあ、よろしくね!ええと……」

そけでカイルはようやくお互いに自己紹介していない事に気が付いたようだった。
シェイドは苦笑しながらも手を差し出す。

「俺は……レイス。よろしくな、カイル」

咄嗟に口から出た名前は、宿をとる時に咄嗟に考えた偽名である。その場で思いついたもののわりに、随分としっくりきた名前なのでこれからも使っていくことにしたのだ。
どうせシェイドと名乗る気はなかった。いつかはシェイドであることを明かす時が来るかもしれないけれど、今はまだレイスという名の別人として生きていたかった。
同じ名前の別人だと言い張ることもできるだろうが、シェイドの名前はあまりに重すぎた。
カイルはぱあっと明るい笑顔になり、シェイドの手を握った。そして、ロニ、リアラと順に自己紹介をしていく。

「……僕の名はもう知っているだろう」
「ああ。ジューダス、だろ。さっきの話だけどさ、俺の実力は旅の途中でおいおい判断してもらうってことで」
「そうさせてもらおう」

昔のような関係を築くのは難しいだろう。
十八年前、ああやってリオンが心を開いてくれたのは奇跡に近かった。リオンが信じたのはシェイドであり、今ここにいるレイスではない。そしてシェイドはもういない人間であり、ジューダスにとっても、この世界にとってもとうに死んだ人間だった。


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