「うん、もう大丈夫。呼吸も落ち着いているし……」

神殿内のフィリアの私室。
寝台の周りに集まった四人は、ひとまずの安堵に大きく息をついた。

「よかったぁ……。でも、君ってすごいね!あれだけの大怪我を、あっという間に治しちゃうんだからさ!」

その感心するカイルの声に、表情を曇らせた少女。

「すごくなんか、ないわ……フィリアさんを巻き込んでしまった上に、助けられなかった。それに、私一人じゃこの怪我も……」

自信なさ気な暗い声、そしてシェイドの方を見上げる少女。

「ダメ……やっぱりダメなの!私一人の力じゃ、人一人も守れない!これじゃ……」

そう言って俯いてしまった少女に、カイルはそっと語りかけた。

「あのさ、俺の母さんが言ってたんだけど……」

シェイドは、少女が自分から意識を逸らしたのを見計らって、一人静かに部屋を出て行った。
黙って立ち去るのは申し訳ないと思うが、突っ走ってしまった分もあるので少しばかり自分の気持ちを整理しておきたかった。直感で動いてもそうそう失敗しない自信はあるが、考えなしな言動というのはあまり好きではない。ある程度計算できる方が色々と楽だ。旅路も、人間関係も。
選択肢は二つ。
このままカイル達に着いて行くか、かつてリオン……いや、ジューダスがやろうとしていたように、こっそりと後をつけて、影ながら助け船を出すか。
どこからどう見てもストーカー行為ではあるが、致し方ない場合はある。やむ追えない事情もある。全くもって嬉しくないことこの上ない称号なんかがもらえたりもしそうだが、一番無難な方法であることは間違いなかった。

「おい」

門前で一人悶々と考え込んでいると、不意に後ろから声を掛けられた。
もちろん、声をかけられる前に近付いてくる気配で気付いてはいたが。

「ん?」
「お前は何者だ。なぜカイル達を助けた」

声音が、明らかにシェイドのことを怪しんでいる。
おそらく、カイルたちの近くに不審人物を置きたくないのだろう。その気持ちは十分すぎるほどによくわかるし、シェイド自身、自分が明らかに不審極まりない自覚はあった。

「目の前で人が襲われてたら普通は助けるだろ」
「目が見えないくせによく言う。そんな奴が助けに行ったって、足手まといになるだけだろう」
「違いない。でもちょっとやそっとじゃ足手まといにらない自信があったもんでね。混戦にならないサシの勝負ってんなら、周りを気にせずに思いっきりやれるけど……どうする?」

シェイドは、にやりと笑って剣の柄に手をかける。どこまでやれるか試してみたい気持ちはあった。相手も、剣を抜こうとした。が、

「待ってよ、二人とも!」

タイミングよく聞こえてきたカイルの声に、シェイドはぱっと剣から手を放す。喧嘩をしているなんて思われでもしたら面倒だ。

「さっさと行っちゃうなんてヒドいよ!助けてもらったお礼もまだ言ってないのにさ!」
「礼などいらん。偶然通り掛かったから、気紛れで助けた。それだけだ……」
「ちょーっと待てや。何をどうしたら偶然あんな所を通り掛かれるってんだよ!」

思わず声をあげてしまったシェイド。

「そうだよ、助けに来てくれたに決まってるよ!」
「……そう思いたいのなら勝手にすればいい。じゃあな」

ジューダスは、そのまま立ち去ろうとする。が、カイルはジューダスの前に回り込み、それを引き止めた。

「待って!ジューダスは……どうして俺達のことを助けてくれるの?」
「お前達を見ていると、危なっかしくてイライラするからだ」

ジューダスは、カイルから目を逸らすようにして横を向く。

「それじゃあさ、ジューダスも一緒に来ればいいんだよ!……君も!」

カイルがジューダスと話している間にそっと立ち去ろうとしていたシェイドは、突然腕を掴まれた。

「へっ、俺?いや、明らかに今までの会話と関係なくないか?」

だが、シェイドの腕を掴んだまま、カイルは話を続ける。

「遠くでじーっと見てるからイライラするんだよ。近くにいれば、そんなことないし。それに、フィリアさんが言ってたじゃん、リアラには、仲間が必要だって。だから、ジューダスも、君も!」
「だから、何がどうなって俺もなんだよ!」

シェイドはカイルの手を振りほどこうとするが、ますますしっかりと掴まれた。剣士だけあって握力はなかなか強い。

「……やめておけ。僕を仲間にすると、ろくでもない事になるぞ」

果たしてそれが、過去の裏切りのことを指しているのか。
シェイドが口を開こうとした時、街の方から門番と思しき男が声を掛けてきた。

「おい、お前達。この辺りで怪しい奴を見掛けなかったか?神殿に賊が侵入したらしいんだが」

シェイドはすぐに笑みを浮かべて、男の方に向き直った。

「さあ?俺達は何も知らないけど」

嘘を吐いていると思われないようごく自然に、言い切ってしまう。動揺すれば怪しまれるのだから、ここは全力で白を切るのが吉だろう。実際、シェイドたちは何も悪いことなんてしていないのだから。

「そういえばお前達、今日は参拝の日でもないのに何故ここに?」
「資料館に用があったんだよ。何なら後で確認とってもらっても構わないけど」

シェイドはこの三日世話になった神官の名前を告げる。門番もその神官のことは知っていたようでひとまず納得してくれた。だが、後ろで佇むジューダスを見て、再び訝しげな目を向ける。

「おい、その後ろに立っている奴!何故こちらを見ない!」
「………」

言葉を発しないのがますます怪しく思われてしまったようで、門番はつかつかとジューダスの方に近付いて行く。


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