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覚えのある気配だった。
そして、シェイドの耳に懐かしい声が届く。
「受け取れ、カイル!」
背後でカイルが剣を振りかざす気配を感じ、シェイドは咄嗟にその場を跳びのいた。
「でやぁぁぁっ!!」
「グアァッ!!」
一閃。
カイルの攻撃は見事命中し、襲撃者はヨロヨロと後退る。傷は浅くはないだろう。だが残念ながら致命傷には至っていない。カイルの力ではまだまだ叶わないという証でもあった。
「我が飢えを満たす相手が、この世界にいようとはな。我が名は、バルバトス=ゲーティア……カイル=デュナミス、その名、覚えておこう……」
シェイドは、再び空間がねじ曲がるのを感じた。と同時に、バルバトスと名乗った男の気配も遠ざかっていき、消えた。
「や、やった……」
気の抜けたカイルの声が響く。だが残念ながら、身に迫る危機は去ったが現状が改善されたわけではない。フィリアは予断を許さない状況にあった。
「そうだ!フィリアさん!!」
「……『ヒール』!!」
少女の声と共に、柔らかな光がフィリアの傷口を包む。
「とりあえず、応急処置はできたはず……どこか休めるところへ連れて行きましょう」
「確か、この神殿内にフィリアさんの私室があるはずだ。俺が運ぼう」
「うん、頼むよロニ」
一先ずはなんとかなったらしいと、シェイドは大きく安堵の息を吐いた。過剰な干渉はしないつもりだったが、結局は勢いのまま接触することとなってしまった。
すぐにもここから離れたい気持ちでいっぱいではあるが、神殿の外はこの騒ぎで集まってきた人が少なからずいるようで、ざわめきが聞こえてくる。
今ここで単独行動をとるのは賢明ではなさそうだ。が、これから先のことを考えるとやはり接触は最低限にして去っておいた方がいい気もする。
「あの、さ」
ほんの僅かの逡巡をどうとったのか。おずおずとかけられる声に、シェイドははっと顔を上げた。
「えっと……見えてない、んだよね?歩ける?手、掴まる?」
こちらを気遣うセリフにシェイドは、迷いを断ち切った。
結局、向けられるこの優しさを無下にすることなんて、できるはずがないのだ。
だって、初めて聞くはずの声は、シェイドにとってはあまりに懐かしすぎた。
「ありがとな。フィリアの様子が気になるから、一緒に着いていきたい。肩に掴まっても?」
「オッケー、任せてよ!」
「ゆっくり歩いた方がいいかしら?」
「まあ、普通くらいで。あんまりのんびりしてたら、先に行ったお兄さん待ちぼうけ食らわせちまうし。俺のペースに合わせてほしい」
こうしてシェイドたちは、意識のないフィリアを抱えて大聖堂を後にした。
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