「この調子だと、夕方近くまでかかるかもな」

実は尋ねるまでもなく到着までにかかるであろう距離と時間は計算済みだったんだが、こんなことルーティに伝えたら一気に落ち込みそうだからあえて黙ってた。

「……お前も大概お人好しだな」
「あれ、聞こえてた?」
『そりゃもうバッチリ』

そんなに大きい声で話してたつもりないんだけどなぁ。

「俺のはお人好しって言わねーよ。人の恋路を見て、他人事だと思って楽しんでるだけ」
「……あんなの、どこが面白いんだ」

わかってねーなー、少年。あんなのだから面白いんじゃないか。

「スタンを巡った泥沼的に華麗なる三角関係!果たしてアイツは本人達も自覚しきっていない二人の愛に気付くのか?ちなみに、近々お前も参入予定だ」
「何だそれは。しかも僕を勝手に巻き込むな。関係ないだろう」

関係なくはないだろ?いちおー仮にも身内だろ?姉弟だろ?
と言えないのが辛い。

「アイツらの仲間の一人としては、その後の展開が気になるもんだろ?」
「別に。第一、仲間などと思ったことはない。そんなもの足手まといなだけだ」

リオンの実力からすれば足手まとい発言は事実だろうけどさ。
現状、カルバレイスまでならとうに着いてもおかしくない時間を過ごしてきたわけだし、友達とは言わずとも仲間認定くらいはしてもいいんじゃないか?
よーし、ここは一つイジメてやろう。

「ちなみに配役としてはリオンはルーティの弟だ。『お前みたいなスカタンに、僕の姉さんは渡さないっ!!』とか言って、四角関係に」
「やめろっ!!」

珍しく、本気で怒ってるみたいだ。これは少しやり過ぎたか?

「あー、悪い。調子にのりすぎた」
「………」
『あの、少しシェイドと話したいことがあるんですが』

居心地悪い雰囲気の中、声を発したのはシャルだった。

「だ、そうなんだけど。シャル借りてっていい?」
「……勝手にしろ」

というわけで、俺はシャルの代わりに自分の剣を渡して、皆から少し離れた。

『シェイド、どうしたんですか?あなたらしくないですよ』

心配げなシャルの声。お前、気遣うならリオンだろって言ったら、『むしろ今の坊ちゃんは一人にしておいた方がいいんです』って返された。アイツのこと、わかってるんだな。

「俺なんかでもストレス溜まることあるんだよ。今は、この身体が憎らしい」
『シェイドは、気付いてるんですか?坊ちゃんとルーティの関係に』

予備知識としてはもちろんあった。
だけど、たとえそれがなくても、俺はある理由から、あの二人……そしてヒューゴが、血縁関係にあることに気付いていた。

「ああ。ヒューゴもだろう?」
『……そうです。言わないでいてくれたんですね』

俺の事を知ってる奴と話すのは、精神的にすごく楽だ。この世界にはもう、シャル一人しかいないけれど。

「さっきさ、仲間だなんて思ってない、って言われただろ」
『うん』
「あれが、自分に言われてるみたいで。ちょっと八つ当たりした」
『そんなことありませんよ!坊ちゃんは、シェイドのことは大事な仲間だって思ってます!!他の皆に対してだって……さっきのは素直に言えなかっただけなんですから』
「あ、うん……そうか」

シャルのあまりの力説っぷりに思わず押されてしまった。
でも、そっか……。

「仲間、と思ってくれてるのか」
『当たり前ですよ。シェイド、それで怒ったんですか?』
「あー、たぶん。怒ったっていうか、悲しくなった?ちょっと言語化しづらい」

仲間だと思ってたのが俺だけなんだとしたら、すげぇ寂しいなぁ、って。んで、その結果がコレ。
なんとも俺らしくない。神の眼に近付くにつれ、ナーバスになっているのだろうか。

『そうですか……。シェイド、辛かったら今みたいに何でも話して下さいね。僕なんかでよければ、いつでも相手になりますから』
「うん、ありがとな」

さて、もう一回リオンに謝り倒すとしますか。



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