「あっつ〜い!もう、なんでこんなに遠いの〜!!」

ルーティの叫び声が、陽炎漂う砂漠に響き渡った。
まぁ、気持ちは分からなくはないけどさ。

「朝も早くから出発したのになんでまだ着かないのよ!」

そう、砂漠の夜は寒いと言うが、それがまだ明けやらぬうちからチェリクの宿を出た俺達は、カルビオラに向かって砂漠を突っ切っているのだが。

「もう昼じゃない!!」

太陽はほぼ真上まで昇ってしまっている。
けどルーティ、これからますます暑くなるのに、今でこれだけ文句言ってたら後々保たないぞ?
始めは「うるさい!」とか文句を言ってたリオンだったけど、さすがに体力の無駄だと思ったのか、今では黙々と先頭を歩いている。
うん、懸命な判断だ。

「落ち着けよ、ルーティ。きっともうすぐ着くって!」
「アンタ一時間前もそう言ってたじゃない!いつになったら着くのよ……」

スタンはずっとルーティをなだめ続けてる。ホント、お人好しだよな。んで、その度にルーティの八つ当たりを受けてるんだって事には気付いてるのか?気付いてないならお前、冗談抜きでトリ頭だぞ、ただの。

「フィリア、大丈夫か?」

俺は、隣にいたフィリアに問い掛けた。

「大丈夫ですわ。ありがとうございます、シェイドさん。クレメンテまで持っていただいているのに、こんなところで足を引っ張る訳にはいきませんから」
『すまんのうシェイド。ワシが重いばっかりに……』

町を出てすぐ、砂に足をとられて辛そうにしていたフィリアから俺はクレメンテを預かった。それでなくても旅慣れてないフィリアに、嵩張る武器を抱えたまま砂漠を歩かせるのを見過ごす男はいないだろう。
で、戦闘の度にフィリアにクレメンテを返す必要があったから、俺は自然とフィリアの横を歩くようになっていた。

「後ろの二人が気になる?」
「えっ!べ、別にそんなこと……」

あ〜あ、顔真っ赤にしちゃって。そんな顔してると。

「スタン、クレメンテ持つの変わってくれよ」
「シェイドさんっ!?」

思わずイジメたくなるじゃないか。(悪魔)

「うん、任せろよ!」

そう言って駆け寄って来る大型犬……もといスタン。
背負っていたクレメンテをぽいと投げるように渡す。

「いいか、これを持ってる間は、常に、フィリアの側にいないと駄目だからな。絶対に離れんなよ」

所々あえて強調する。

「分かった、ずっと側にいるよ」
「『ぶっっ!!』」
「………っ////」

スタンのその本人的には何気ないセリフに、俺とクレメンテは思わず吹き出し、フィリアは顔が茹でダコ状態。
当の本人はそんな俺達の様子を見てポカンとしている。

「ま、頼むわ。俺マリーの様子見て来るから」

これ以上はお邪魔かなぁ〜とそそくさと退散する。

「マリー、大丈夫……そうにないなこりゃ」
「シェイドか……すまない、寒いのなら平気なんだが……」

そりゃ雪国出身者にはこの寒さはキツいだろう。とは本人さえも知らないことだが。

「……ルーティ?」

ふと近くのルーティが一気に静かになっていたことに気付く。スタン取られちゃって不機嫌、とか?

「そんな顔すんなよ。スタンは誰にでも優しいだけなんだから」
「だからムカつくのよ……」

あれ、照れて大声で否定すると思ったのに。

「あの馬鹿、好きでもないくせに優しくしてくるから……勘違いしちゃうのよ」

うおーーーッ、重大発言っっ!!ルーティさんなにいきなり乙女モード入ってるんですかっ!!いきなりフラグなしでデレきたよ!!
……どうする、俺。ここは遊んで弄り倒してもいいのだろうか?

「どうせアタシのことなんて、うるさくてがめつくてガサツな守銭奴、くらいにしか思ってないくせに……」

いや、これはマジだ。そこはかとなくマジだ。

「でもスタンはちゃんと、人の本質を見る奴だよ。上っ面だけでその人を判断したりなんかしない。ルーティが金にうるさいのだって、そのために必要な何かがあるんだってちゃんと理解してるさ」
「本当に……?」
「まぁ、あいつバカだからな。頭じゃなく、心がちゃんとわかってる」

だってアイツは、裏切ろうと最後まで仲間を、リオンを信じてくれる唯一だ。

「フィリアのとこに行かせた俺が言うのも何だけど、自信無くすなよ。人を好きになることで悪感情を抱くと碌なことにならないぞ」
「わかったように語るわね」
「ぶっちゃけ誰かを好きになったことはないし、好きになったことがあったのかもわからん」
「あ……」
「だから、俺のは読んだ書物とか、誰かから聞いた話の受け売りだ。参考程度に、な」

そう言って俺は、自分が着けていた白のマントをルーティに被せる。

「それ、マリーと被っとけ。これからもっと暑くなる。焼けると後が痛いぞ」
「え、いいわよ。それじゃあアンタが……」

ほら、ルーティだって、優しい。

「俺は暑いの平気だから大丈夫。街まであとどれくらいかかるか、リオンに聞いてくるわ」

そう言って、マントを突き返される前にリオンの方へ行った。



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