「あ、うん。それで、神官達探し回ってウロウロしてたら、この隠し扉見つけちゃってさ」

俺はここまでずっと、話しながらぽちぽちと押していた最後のスイッチを踏む。

「神の眼の所まで辿り着いちまったワケ」

そして俺の背後の扉が重たい音を立てながら開く。
そこにあったのは……。

「あれっ?行き止まり……?」
「何もないじゃない!?」

開けた空間に人間の等身大の石像がただ一つきり。
その安置室の壁と天井は見事に破壊されていた。

「そんなバカな!……っ、フィリア!?」

俺は、司教が驚愕の目で見つめる石像に近付き、道具袋から取り出したパナシーアボトルを勢いよく振り掛けた。みるみるうちに降りかかった場所から色を取り戻し、人間へともどっていく。

「像が、人間に……?」
「逆だ。人間が石化されてたんだよ」

完全に石化の解けた彼女は、力が抜けたようにガクンと膝をつく。

「フィリア!」

倒れこむ前になんとか支え切ることができたが、彼女は両手を前へとのばし、悲痛な声で叫んだ。

「グレバム様、神の眼を持ち出してはいけませんわ!グレバム様ッ!!」

今まさに、神の眼が持ち出される瞬間を目撃しているかのように。

「落ち着け。グレバム大司祭はもうここにはいない」
「そうです……フィリア、一体何があったんです?」
「えっ、シェイドさん……アイルツ司教様?どうしてここに?」

ようやく我に返ったフィリアは、ぽかんとした顔で俺達を見た。冷静になってくれればフィリアは強いんだけどな。

「おい、女。ここで何があった?神の眼はどうした?」
「ああ、そうです、大変なんです!!グレバム様が神の眼を……は、早く追わなくては!!」

またパニクっちまったよ。
俺がほとほと困り果ててたら、ルーティが前に進み出てきた。

「落ち着きなさいって!たぶんアンタは一ヵ月近く石にされてたのよ?グレバムとかいうヤツだって、もうとっくに行方をくらましてるに決まってるわ」
「うん、だから、俺達に何があったのか教えてほしいんだ」

スタンの優しい問い掛けに今度こそ落ち着きを取り戻したフィリアは、一つ大きく深呼吸して、事の次第を話し始めた。

「じゃあ神の眼は、グレバムに……」
「ええ。私では止める事もできませんでした……」

フィリアの悲痛な声が、がらんとしたホールに響く。

『なんて事だ……スタン、一刻も早く神の眼を取り戻せ!』
「ええっ!そんなにヤバい物なのか?」

もしかしてスタンのやつ、天地戦争のことも知らないのか。よし、これは後でみっちり教えてやらねば。

『ヤバいなんてものじゃすまないわ。世界が再び滅亡の危機にさらされるかもしれないんだから』
「みすみすそんな危険な物を放置するつもりはない」
「そうよ!それがないとヒューゴから報酬貰えないじゃない!!」
「……で、話が纏まった所で提案があるんですが、たいちょー」

そう言って挙手したのは俺。

「何だ。それと僕は隊長じゃない」

あ、律義に突っ込んでくれてありがとうございます。ボケを放置されるのって辛いんだよなー……ってそうじゃなくて。

「フィリア、連れて行かないか?」

その言葉に皆かなりびっくりしてる。

「却下だ。第一、連れて行くメリットがない」
「いや俺、大司祭の顔知らないんだけど」

そこでようやく、追う相手の人相が分からねぇことに気付いたっぽい。皆さん焦り過ぎでしょ。

「でも、フィリアの意思はどうなのよ。危険な旅なのよ?」

皆がフィリアの方に注目する。

「……私も、連れて行って下さい。グレバム様を止めたいんです」

言い切ったフィリアのセリフにニヤリと口角を上げる。あれ、なんか俺の方が悪役キャラが板につきそうじゃないか?

「上出来。異論のあるやつは?」
「フン……勝手にしろ。それから、グレバムは僕達の敵だ。様付けするな」
「はい、分かりました」

スタンやルーティも異論はないみたいだ。マリーは……本能的に危険を感じたり、明らかに倫理的にアウトじゃない限りはにっこり頷いてくれるタイプだから、反論することはまずないだろう。

「じゃ、報告しに戻るとしますか」

こうして俺達は、一人増えた仲間と共に、ダリルシェイドへの道を戻ることとなった。
結果は最悪、前途は多難。行程は決められた道筋通りに恙無く、ってとこかな。



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あきゅろす。
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