どうにか封印石を全て壊して戻ってきた俺達が知識の塔の扉を開けた先に見たのは、

「アイルツ司教!!」
「シェイド、さん……?」

衰弱した司教の姿だった。

「大丈夫か?」

駆け寄って近付くと、思ったほど危険な状態ではないようで、弱々しくも頷いてくれた。

「シェイド、この男は関係者か?」

ほぼ確信をもちながらも尋ねてくるリオン。俺はアイルツさんに水筒の水を飲ませながら話した。

「ここの神殿で司教を務めるアイルツさん。なあ、大変な目に遭ったんだろうけど、何が起こったのか教えてくれないか?」

多少なりとも水分をとって幾分顔色の良くなった彼は、沈痛な表情で語り出した。

「もう一月ほど前になりますが、大司教のマートンがグレバム大司祭の手にかかり、命を落とされたのです。おそらく、他の者達も……」

とんでもない事実に全員が言葉を失う。そんな静寂を最初に打ち破ったのはリオンだった。

「おい、例のものはどこにある?」
「は?何の事でしょうか」

ホントに分からないって感じに首を捻るアイルツさん。この人どっか抜けてるとこがあるからな。

「なーにすっとぼけてんのよっ!さっさと白状しなさい」
「ちょ、ルーティ、もうちょっと優しく……」
「うるっさいわね、黙ってなさいよ、スカタン!神の眼はどこにあるのよ!!」

『何だとっ!!!神の眼がここにあるのか!!?』

「「「「〜〜〜ッ!」」」」

ディムロスの叩き付けるような大声に、聞こえていないマリーとアイルツさん以外が耳を押さえる。ま、意味ないのは分かってんだけどね。鼓膜に直接響いてるわけじゃないんだし。
さすがのリオンも眉間に皺刻んでるよ。

『ルーティ、一体どういうことなの?』

普段冷静なアトワイトまで焦ったような声を出している。そりゃそうだよな。天地戦争経験者なら、その脅威は身を持って知ってるんだから。

「俺もその話、ちゃんと聞きたいところだな」

たとえ内容を最初から知っていても、ボロは出せない。なら、口に出しちまう前に聞いとけばいい。
リオンはルーティに、「この馬鹿女……」と悪態をついていたけど、きちんと説明してくれた。

「今回僕達が受けた任務は、連絡のとれなくなったストレイライズ神殿の状況と、神の眼の所在確認だ。極秘任務とされていたから、お前にも伝えていなかった」
「で、あたし達はその神の眼とかいうのを見つけて、ヒューゴに報酬を貰うことになってるのよ。話したでしょ?」
『聞いてないわよ、ここに神の眼があるだなんて』
『おいスタン、どういうことだ!』
「お、俺に聞かれてもよく分かんないよ……」

俺に話すリオンと違って、剣に話すスタンとルーティにかなり怪訝な顔をするアイルツさん。マリーはもう慣れたもんで、フツーに流しているっぽい。

「気にするな。こいつらは少し頭がおかしいだけだ」
「そーそ、今ちょうど電波受信中でさ。宇宙の彼方と交信してんの」
「「違うっ!!」」

俺達の言葉にキャンキャン言う二人を余所に、アイルツを促すリオン。俺は、その横に並んだ。

「本当は、お前と共に行くように言われていたんだが、飛行竜の任務から帰ってきたばかりだったから、今回は僕が一人で行くと言ったんだ」

リオンは俺の方を向いてそう言うと、最後に

「黙っていて悪かった」

と付け加えた。

「別にリオンが謝ることねーよ。任務に無関係な人間に情報を漏らさないのは当たり前だし、お前は俺の体調を気遣ってくれたんだろ?」

笑ってそう言うとリオンに顔をそらされた。でも、その耳が少し赤いのにはちゃんと気付いてる。

「ありがとな」



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