3 『おい、シャルティエ。話があるんだが……』 スタンがどこかへ立ち去った後、ディムロスが嫌に真剣な声で話しかけるのが聞こえて、ちいさく寝返りをうつ。 僕は、連日不寝番となっているシェイドのことが不本意ながら気になって眠れずに起きていたのだが、なぜか理由もなくその話に興味が沸いて、眠った振りをして聞き耳をたてることにした。 『どうかしたのかい?ディムロス』 『お前は……シェイドを覚えているか?』 シェイド? なんでここでアイツの名前なんか。 それに、覚えているって……シェイドはここにいるじゃないか。 『……ええ、当たり前じゃないですか。忘れるはずありません』 一体誰の話をしているんだ? 『彼、シェイドに似ていると思わない?もう長く会っていないから、顔までは思い出せないのだけど』 『アトワイトまで……皆して一体何が言いたいんだよ?』 シャルの声が苛ついている。 珍しいな、アイツが本気で怒るなんて。 『シェイドと親しかったお前なら、アイツの顔を覚えているだろう?……似過ぎていると思わないか?』 『………』 風がやんで、夜独特の耳鳴りがするような静けさに包まれる。 しばらくして、シャルの疲れたようなため息が聞こえた。 『ディムロス、あなたともあろう人が何を言ってるんです?シェイドは……死んだんですよ、千年も前に。基地や僕達を守るためにベルクラントの砲撃をその身に受けて、僕達の目の前で跡形もなく消し飛んだじゃありませんか……』 思わず、息を呑みそうになった。 たった一人の人間が、一体どうやってベルクラントを止めたというのだろう。 その身に受けたということは、その人物がシールドとなる何かを持っていたのか?だとしたら、その人物も助かっているはずだ。それに、ベルクラントを防げるほどの物が存在したなど、聞いたこともない。 『それに言わせてもらうけど、シェイドはあんな性格じゃありませんでしたよ』 『そ、それは……』 『確かに、な……』 ……おい、一体どんな奴だったんだ? こいつらの反応からすると、僕の知っているシェイドとは全く違うようだが。 『……そうだな。すまなかった。嫌な事を思い出させた』 『シェイドは……私達の知っているシェイドは、まるであなたたちの親みたいな人だったものね』 『ええ。シェイドはまるで、僕とハロルドとカーレルのお母さんでしたからね……』 ハロルドにカーレル……あのベルセリオス兄弟か?シャル、お前って実はすごい奴だったんだな。(何を今更) 『もう、今日はこの辺にしましょう。スタンも戻って来たようだし』 『ああ、そうだな』 『ごめんなさいね、変な事聞いて。……じゃあ、おやすみなさい』 そうしてその夜のソーディアン達の会話は終わり、僕の中には多くの謎だけが残されることとなった。 天地戦争時代に生き、そして散った、シェイドという男。 歴史上に名を残さないそいつに、無理だと分かっていながら、会ってみたいと思ってしまった。 [back][next] [戻る] |