2 俺の怒りが治まった頃には辺りはとうに暗くなっていて、逆鱗に触れるのが嫌だったのか、不寝番をすることに誰も文句を言わなかった。 皆が寝静まった中、火の横で座り込んでいた俺の耳に、誰かの足音がとどく。 「……お前、寝ぼけてるのか?」 その足音の主に声を掛ける。 「失礼だなあ、ちゃんと起きてるよ」 だってスタンだぜ?コイツがこの時間に起きてるなんて……天変地異の前触れか? 「ちょっと寝ずの番、替わろうかと思って、さ。 昼間はホント、ごめんな」 人が気にしないようにしてんだからぶり返すなっての、このスカタン。 「別に、もういいって。……それよりディムロスは?」 「何かソーディアン同士で久々に話したいからって言うから置いてきた」 お前、丸腰で来たのかよ。モンスター来たらどうするんだ……。 「俺は大丈夫だから、とっとと戻って寝ろ」 「でも、もうずっと寝てないだろ?これから森を抜けなきゃならないのに、キツいんじゃ……」 「俺はスタンみたいに睡眠欲のカタマリじゃねえからな。何日か寝なくてもあんま苦になんないの。それに全く寝てなくもない。少しは睡眠とってんだよ。……ほら、お前はマジで寝ろよ。また明日ルーティの怒鳴り声で目覚ますハメになるぞ」 そこまで一気に畳み掛けるように言う。 すると、ようやくスタンも諦めてくれたようだ。 「そっか、分かった。替わって欲しい時はいつでも言ってくれよ」 「あぁ、わかってるよ。ちゃんとスタン以外を起こすから」 「Σえっ!なんで!?」 そんな分かりきった事聞くなよぉ。お前がまず起きる訳ねぇし、たとえ起きたとしても、お前の見張りほど不安で心配で危険な物はない。こればかりは言い切れる! そんな事に気付いたのか、スタンは「そりゃそうだけど…」とかいっていじけている。 「とにかく早く寝ろ。俺は朝から機嫌の悪いリオンとルーティはごめんだからな」 なんせスタンを叩き起こすのはこの二人の役目だからなぁ。 「うん、わかったよ。おやすみ」 「あぁ、おやすみ」 寝床へ戻って行く金髪の後ろ姿を見送る。 スタンって奴は、本当に優しい。 リオンもルーティもマリーも、シャルもディムロスもアトワイトも皆、優しい。 こんな人達に囲まれてると、自分の醜さがどんどん浮き彫りにされていく様で、すごく苦しい。 「もし、俺が……」 何にも、誰にもなれないのは分かってる。それでも、願わずにはいられなかった。 もし俺が、この世界に普通に生まれてきて、運命も未来も何も知らずに過ごしてきた一人の人間であったら、と……。 [back][next] [戻る] |