俺の怒りが治まった頃には辺りはとうに暗くなっていて、逆鱗に触れるのが嫌だったのか、不寝番をすることに誰も文句を言わなかった。
皆が寝静まった中、火の横で座り込んでいた俺の耳に、誰かの足音がとどく。

「……お前、寝ぼけてるのか?」

その足音の主に声を掛ける。

「失礼だなあ、ちゃんと起きてるよ」

だってスタンだぜ?コイツがこの時間に起きてるなんて……天変地異の前触れか?

「ちょっと寝ずの番、替わろうかと思って、さ。
昼間はホント、ごめんな」

人が気にしないようにしてんだからぶり返すなっての、このスカタン。

「別に、もういいって。……それよりディムロスは?」
「何かソーディアン同士で久々に話したいからって言うから置いてきた」

お前、丸腰で来たのかよ。モンスター来たらどうするんだ……。

「俺は大丈夫だから、とっとと戻って寝ろ」
「でも、もうずっと寝てないだろ?これから森を抜けなきゃならないのに、キツいんじゃ……」
「俺はスタンみたいに睡眠欲のカタマリじゃねえからな。何日か寝なくてもあんま苦になんないの。それに全く寝てなくもない。少しは睡眠とってんだよ。……ほら、お前はマジで寝ろよ。また明日ルーティの怒鳴り声で目覚ますハメになるぞ」

そこまで一気に畳み掛けるように言う。
すると、ようやくスタンも諦めてくれたようだ。

「そっか、分かった。替わって欲しい時はいつでも言ってくれよ」
「あぁ、わかってるよ。ちゃんとスタン以外を起こすから」
「Σえっ!なんで!?」

そんな分かりきった事聞くなよぉ。お前がまず起きる訳ねぇし、たとえ起きたとしても、お前の見張りほど不安で心配で危険な物はない。こればかりは言い切れる!
そんな事に気付いたのか、スタンは「そりゃそうだけど…」とかいっていじけている。

「とにかく早く寝ろ。俺は朝から機嫌の悪いリオンとルーティはごめんだからな」

なんせスタンを叩き起こすのはこの二人の役目だからなぁ。

「うん、わかったよ。おやすみ」
「あぁ、おやすみ」

寝床へ戻って行く金髪の後ろ姿を見送る。
スタンって奴は、本当に優しい。
リオンもルーティもマリーも、シャルもディムロスもアトワイトも皆、優しい。
こんな人達に囲まれてると、自分の醜さがどんどん浮き彫りにされていく様で、すごく苦しい。

「もし、俺が……」

何にも、誰にもなれないのは分かってる。それでも、願わずにはいられなかった。
もし俺が、この世界に普通に生まれてきて、運命も未来も何も知らずに過ごしてきた一人の人間であったら、と……。



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