3 王との謁見も終わり、スタン達はとりあえず牢屋入り。そして、俺達が帰ってきたのはヒューゴ邸。 「あら、お帰りなさい、リオン……シェイド!!」 いきなり駆け寄って来たマリアンに抱き付かれた。これはマズいってマリアン……!横の坊ちゃんがかなりコワいって! ……果たして俺は明日の朝日を拝めるだろうか。 「無事だったのならどうしてもっと早く連絡を寄越さなかったのよ!皆、心配したのよ!!」 スミマセンデシタ。(平謝り)俺が悪かったです、今度からは気を付けますから。それもう三度目なんで勘弁して下さい(かなり切実)。 「フン……これで少しは反省することだな」 「ごめん、マリアン……心配かけて。リオンと、シャルも、な?」 「もう……無事だったんならいいわ。でも、今度からはちゃんと連絡してちょうだい?一筆の手紙だけでもこっちは安心するんだから」 なんか俺ってこんなに大勢の人に心配されてたんだなって思うと、どうにも変な気分だ。 だって俺は、運命を変えない事で、確実にこの身近な人達のうちの何人、何十人かを殺すのだから……。 ―――そんなことを考えていたからか、この時リオンが、部屋に向かう俺の後ろ姿を疑いのまなざしで見ていた事に気付かなかった。 翌朝食堂へ行くと、リオンの姿だけが見えなかった。 「おはよう、マリアン……あれ、リオンは?」 「おはよう、シェイド。リオンならお城に呼び出されて朝早くに出かけたわよ」 城に……ってことは、ストレイライズ神殿への派遣の件か。 ん?どうして俺には声がかからなかった? 「呼ばれたのは……リオンだけ?」 「えぇ、そうよ。あなたは疲れてるでしょうから、一時お休みなんですって」 休暇……ってことでいいのか? それにしても、客員剣士の仕事を始めてからこれまで、まとまった休みなんてもらったことなかったからな。毎日、任務任務で、ちょっと空いた時も報告書作りや書類整理に追われる日々。 それでなくてもこの世界の一般常識詰め込むために暇をみては図書館や神殿に入り浸ってたし。 「どーしよ。何したらいいか分かんねーよ」 食事を終えて、自分の部屋でベッドに転がった。……牛になる?そんなこと俺とは無縁さ。 あー、それにしても、退屈だ。あの仕事に追われる日々も、その渦中にあれば大変だとしか思わないけど、いざ遠ざかってしまえば、どこか寂しい。 ……いっその事、リオン達について行くか? そんなことを考えていると、玄関の方から人の声が聞こえた。 「マリアン!マリアンはいないのか!」 出た、マリアン節。これを聞いたら、あぁ、帰って来たなぁ〜って思うのは、どこか間違っているのだろうか? 俺は、手早く旅の準備をする。元々物が少ないし、旅にそんなに荷物を持って行かない方だから、荷造りは十分程度で終わってしまった。 「あっ、シェイド!」 「よ、スタン!災難だったな」 スタンが真っ先に気がついて俺の名を呼ぶ。う〜ん、やっぱり犬っぽい。 「ディムロスも、お疲れ」 『はぁ……とんでもない目にあったぞ。こんなことならお前と一緒にダリルシェイドへ来ていればよかった』 「なーに言ってんだよ中将。それだと想い人に遭遇できずに」 『うわぁーっ!やめてくれ!!』 そんな俺達のやりとりを呆然と見ている人と剣が二人と一本。マリーはもちろん聞こえていないから微笑ましく眺めているだけだ。マイペースな人だからな。 「ちょっとアンタ、あのクソガキの仲間?ソーディアンの声が聞えてるみたいだけど……」 うわ、ルーティ敵愾心バリバリかよ。傷つくなあ。 第一印象以前に人物像から最悪じゃね? でも最初が肝心。挨拶は大切。 「初めまして、可憐なレンズハンターさんと優美なお姉さん。俺は客員剣士シェイド=エンバース。どうぞ以後お見知り置きを」 そう言って、優雅に一礼すると、ルーティだけでなく、スタンまで呆然とする始末。 「シェイド、俺の時とは全然違うな……」 あ、そのことか。 「いちおー俺、常識人だからね。目上には敬意を払うことにしてんだよ」 「俺だってシェイドより年上だよ!」 「それは、直感的にお前に敬意を払う必要はないと感じたからだ」 「Σうっ、ヒドい……(泣)」 うん、気に入った。スタンを弄るのはなかなか面白い。 こんなカンジで俺がいびり倒す楽しさに目覚めていると、いきなりルーティがけらけらと笑い出してチョットびっくりした。 「あははっ!アンタ面白いわねー。普段通り喋ってくれていいわよ。ゴメンね、さっきは八つ当たりしちゃって。あたしはルーティ=カトレット。レンズハンターをしてるの。……で、こっちがアトワイトね」 『初めまして。私もディムロスと同じソーディアンなの』 「私はマリーだ。ルーティと一緒に旅をしている」 そう言ってきた二人と挨拶していると、奥からリオンが現れた。 「シェイド、何をしている」 「あ、おはよーリオン。いや、暇貰っちゃってもすることねーから、久々に神殿でも行こうかなぁと……」 もちろんこれは口実。同行するためにはごく自然な言い訳が必要だと思ったから。 「えっ?偶然だなあ。俺達もストレイライズ神殿へ行くんだよ、な?」 「そうなのか。じゃあ、俺も一緒に連れて行ってくれよ」 もちろん、断られるはずはないと思ってのこの一言。 こうして俺は、晴れて旅の仲間に加えてもらうことになった。 [back][next] [戻る] |