『スタン!戦えッ!!』

どれだけ呼び掛けても、反応を返さない。
目の前で自分を庇って人が死ねば、こうなってしまうのも分かる。聞いたところによるとまだ十八歳らしく、そんな子供にこの現状は厳しいだろう。
……だが、だからこそこんな所で死なせるわけにはいかない。

『スタン…ッ!!』

その時、どこか懐かしい蒼が見えた気がした。

「大丈夫か?」

今にもスタンに襲いかかろうとしていたモンスターを一振りで片付けたそいつは、剣を鞘に収め、スタンの上に被さっているクルーをそっと抱え起こし、首に指をあてる。
スタンがその姿を見て、小さく呟いた。

「シェイド……!」

なるほど、こいつがシェイドか。
スタンと望みの薄い約束を交わした相手。きっと、既に生き残っている者がいないことにも気がついていたのだろうに。
クルーの遺体を横たえ、短く黙祷を捧げる姿は、何かを悔いているような、懺悔するような雰囲気があった。

「スタン、飛行竜はもうすぐ墜ちる。脱出するぞ」
「……いやだ、戦う」

それまで呆然としていたスタンから、怒りの気配が伝わってくる。

「こんなの酷過ぎる!俺が皆の敵を取ってやるんだっ!!」

まったく、このお人好しめ……。

『何を馬鹿な事を言っている!自分の実力が分かっているのか?!お前が死んでは元も子もないだろう!』

今のスタンでははっきり言って力不足だ。ここまで来るだけでも体力を削られているというのに、もう脱出ポットに行くまでのが限界だろう。

「でも……っ!」

パンッと、シェイドがスタンの頬を打つ音が響いた。そして、怒声がとぶ。

「何が皆の敵だ!馬鹿も大概にしろ!敵討ちってのはなぁ、死んだ者のためにするんじゃねぇ。生き残った奴等のただのエゴなんだよ!」
『そう、コイツの言う通りだ。今更どれだけの敵を倒そうとも、死んだ者は帰っては来ない…!』

それでもまだ納得出来ない様子のスタンは、シェイドに掴まれた腕を振り払って敵のいる方へと駆け出そうとする。

「悔しいんだよっ!!何も出来ずに、守られるだけだった事が!!」
「そんな理由で、お前は他者の命で生かされた自分を危険に曝すのかっ!!お前の命は、あのクルーの命でもあるんだぞ!!」

この言葉は、効いたようだ。スタンの雰囲気が、落ち着きを取り戻していくのが分かる。それを察知したのか、シェイドも静かな声で、諭すように語りかけた。

「それに今お前が勝手な行動をとれば、俺もディムロスも危険に曝される」
『お前が自分の身を守る事だけに専念すれば、こいつも余計な危険に遭う事もないはずだ。実力はありそうだからな』

お人好しな奴ならばこの言葉は無視出来ないはず。案の定、スタンはようやく今自分がしようとしていたことを理解したようだ。

「ごめん俺、何も分かってなかった。……脱出しよう!」
「よっし!馬鹿な田舎者の目も覚めた事だし、行きますか」
「悪かったな、馬鹿で!って……なんで田舎者って知って……」
「いや、てきとーに言っただけだったんだけど……。墓穴掘んなよ、田舎者〜」
『………』

スタンの反応がないところを見て、シェイドというのは元々はこういう奴だったのか?さっきまでの恐ろしく真剣な表情は、今となっては全く見当たらない。
二人はそのまま凄惨な光景に似合わない明るい声を飛ばしながら、脱出ポットまでの道を駆けて行った。



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あきゅろす。
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