「うーん、快晴っ」

ようやくソーディアン・ディムロスの回収も終わってダリルシェイドへと向かう飛行竜の甲板。俺は流れていく景色を見ながら一人でかいため息をついた。
嫌だ嫌だと思う出来事が先に待ち構えている時に限って、時間は飛ぶように過ぎて行くんだよな。まったくもって理不尽だ。

「気が重いなぁ……」

と、その時、中でざわつく気配が。

「……お、とうとう見つかったか?スカタン」

実は、ノイシュタットで荷物に紛れて飛行竜に乗っているのをバッチリ見ちまったんだよなぁ。っていうか、クルー達も気付けっての……。セインガルドとしては恥だぞ?
そんな事をごちゃごちゃ考えながら艦長室へ行くと、金髪の青年がまさに殴られようとしている瞬間だった。咄嗟に艦長の腕を掴んで止める。

「はい、ストップ。暴力に訴えるなんて情けないですよ」
「シェイド様!?し、しかし、こいつはアレを狙ってきたかも……」
「もしそうだとして、ずっと倉庫で寝てたくせに同じ部屋にあるアレに気付かないなんてことはないんじゃないですか?どうせ、ダリルシェイドへ行きたくて密航してきた輩でしょう。甲板の掃除でもさせとけばいいんですよ」

艦長に言うだけ言って、返事も待たずに金髪クンの手を引いて出て行った。理不尽に暴力を振るう奴は許せねぇからな。つーか嫌いなんだよ。

「あ、あのさ、君、俺の事助けてくれたんだよね」
「うーん……結果的にそうなっただけで、意図的に助けに行ったわけじゃないんだけどなぁ……。ただ単にあーいう奴がムカつくんだ」
「でも俺は助かったからさ。ありがとう!」

そう言って金髪クンは眩しいばかりに輝く笑顔を見せてくれた。
田舎で十九年も純粋培養されるとこんな奴ができるのか……。原料はやっぱアレか?綺麗な水と空気か。

「俺、スタンって言うんだ。スタン=エルロン。君はさっきシェイドって呼ばれてたみたいだけど…?」
「そうだよ。俺はシェイド=エンバース。よろしくな」
「あぁ、よろしく!」

さて、自己紹介も済んだところで、やってきました飛行竜甲板。俺としてはUターンだけど。

「んじゃスタン、はい、コレ」
「コレ……って、デッキブラシ?」
「うん、そう。じゃ、ここら一帯の掃除ヨロシク」
「Σえぇっ!?ここ、かなり高いよ!!」

そうだな、高いな。フツーに落ちたらまず命はないな。でも、ここで掃除するのは運命に定められているのだよ、スタン君。

「でもこのままだとお前、ただの密航者で牢屋入りだぜ?」
「あっ……」

うわ、一気に青褪めちまったよ。なんかすげー罪悪感かも。

「だから、ここ掃除してくれたら後でこっそり逃がしてやるって」
「えっ!ホント?!ありがとう、シェイド!!」

うん、ホント。でもこの飛行竜はダリルシェイドに辿り着くことはないんだけどな。
結果的には誰にも咎められずに外に出られるから、騙してるわけでもねぇし。

「スタンってなんか犬っぽいよなー。大型犬ってカンジ」
「え?い、犬……?それって俺どういう反応したらいいのか…?」
「ほら、でっかい犬って可愛くてバカっぽいイメージあるんだよね。そこが似ててさぁ」
「………(泣)」

今は少しでもこの穏やかな時間が続けばいいのにと……そう願わずにはいられなかった。



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