とりあえずパーティはお開きになって、皆それぞれの持ち場に行き、俺は自分の部屋に戻ってきた。
うっかりしてたぜ。記憶力はいいって自負してたんだけど、どうも自分のこととなると優先順位が一番下になっちまうんだよな。
とりあえずコレ渡しに行くか。
リオンの部屋をノックして声を掛ける。

「悪ぃ、俺。入っていい?」

中から「あぁ」と聞こえてきたから遠慮なく扉を開く。
どうも読書してたっぽい。その表情がどこかいつもよりも穏やかに見えるのは気のせいか?
まぁ、そんなことより、目的達成するか。

「ほらコレ、俺から」

そう言って、細長い小箱を渡す。なんか言われるかなぁって思ってたけど、黙って受け取ってくれた。
………今朝の俺なんかよりよっぽど不気味ですよ、リオンさん。

「これは………」
「アクアマリンだよ。昨日シャルと一緒に買いに行ったんだ」

なー、とシャルと二人で声を揃える。

『シェイドがこの石持つの力に願いを込めて選んだんですよ。ねっ』
「力?」

うわぁ!シャル、余計なこと言うなよ!リオンも気にしてるじゃん!
くそ〜、これは言うつもりなかったんだけどなぁ………。
うっし、ここは誤魔化しちゃえ。

「持ち主の永遠の若さと魅力」

嘘は言ってない。そういう由来もマジであるし。

「お前は僕に何を求めてるんだ?」
「え、だってリオンって永遠の少年…もとい、皆のアイドルだからさぁ……ッ!!」

嫌な予感がして、とっさに後ろに下がると、俺のいた所にはリオンに振り下ろされたシャルがあった。あぶねーあぶねー、もう少しでに脳天かち割られるところだったぜ。ナイスだ俺の反射神経。

『もう……シェイドも正直に言えばいいのに……』
「うるせー。あんなの素面で言えるか」
『じゃあ僕が言いますよ…「えぇっ、シャル?!」
『ホントの意味は、持ち主の側にいて心を癒し身を守る、らしいですよ』

うーわー、言っちゃったよ。シャルのバカ。リオン、フリーズしてんじゃねぇか。

「………」
「………」
『………』
「………(汗)」

やがて聞こえてきたのは、そうか、の一言のみ。

「え…っと……。リオン?」

顔の前で手を振ってみるけど反応ナシ。
おいおいどうしちゃったのさ、そんなにショック大きかったのか?今日一番のサプライズか!?

「……その名は、表向きのものだ」
「…………え?」
「客員剣士となれば、名が広まる。それで、ヒューゴ…様から、頂いた物だ」

……リオンは何を言おうとしてる?
いや、そんなことは気付いてる。でも、ここから先は聞いちゃいけない。聞けば、自分の首を絞めるだけだ、絶対後悔する…!
だが、意志に反して俺の体は動いてくれなかった。

「本当は、エミリオというんだ。これは今のところ、マリアン……とヒューゴ様しか知らない。だが、お前にも知っておいてもらいたいと思ったんだ」

リオンの珍しく穏やかな声が、今は酷く、耳に痛い。頼むからもう……これ以上、何も言わないでくれ。

「これからは、マリアンとシャル以外がいない所では……僕のことはそう呼べ」

だが、そんな願いは、無情にも切り捨てられた。

『シェイド…?どうかしましたか?』
「!い、いや、何でもない。……俺、今日は疲れたから先に寝るよ。お休み」
「?あぁ……」
『おやすみなさい…?』

あれ以上あの部屋にはいてられなくて、自分の部屋に駆け込む。
ドアを閉めると、そのままぺたんと座り込んでしまった。

「自業自得……だな」

自嘲的に笑ってしまう。
そうだ、これはリオンに近付いた俺への戒めだ。死を知っていて何もしない俺への罰なんだ。
たとえ俺はこの世界に存在しないはずの紛い物だったとしても、あの宝石は、この世界で生まれたホンモノだから、何もしようとしない俺の代わりにリオンを守ってくれればいいって。
そんな他力本願な俺に……。

「信頼なんか……向けないでくれ……」

俺は、お前を殺そうとしているも同然なんだぞ?

「こんな俺に、お前の名前を呼ぶ資格なんてねぇんだよ……」

それにしても、いつになく動揺しちまったよなぁ……。こりゃ明日からは気を付けなきゃな。
………もう……寝よう。



―――ただ願うのは、罪深い自分が許されない事のみ。



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