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あの後、剣の稽古に付き合ってもらおうと思って庭に出たが、先に出ていると思っていたシェイドの姿は見当たらなかった。部屋に戻ったのかとも思って邸内も探してみたが、どこにもいない。昼食にも顔を出さなかった。
いつもならうっとうしいくらいに人の周りをウロついているのに、僕が探している時に限って視界に入っていないというのは何だか無性にイライラする。
『シェイド、居ませんね』
「………別に僕はアイツを探しているわけじゃない」
『でも坊ちゃん、ここ通るの今日だけでもう五回目…いえ、何でもないデス……(汗)睨まないでくださいよ……』
仕方なく今日は本を読んで過ごすことにした。
久々の静かな時間。
それが、普段より少し物足りなく思ったのは気のせいだ。絶対に。というか、そんなのは僕が認めない(ほとんど自分に言い聞かせている状態)。
『あ、そういえば僕まだ言ってませんでしたね。坊ちゃん、お誕生日おめでとうございます』
「…誕生日、か……」
それがなんだというんだ。今まで祝ってもらったことなどないし、祝ってもらいたいと思ったこともない。
マリアンが言ってくれる「おめでとう」の一言だけがささやかな喜びをもたらしてくれるだけ……。
そういえば、今日はシェイドにも祝いの言葉を貰ったな(しかも朝イチで)。マリアンとシャル以外から言われたのは初めてだ。今朝は話を流してしまったが(あれは不可抗力だろう)、なにか言うべきだったのだろうか?
……ありがとう、とか。
「………」
もしかして、シェイドはそれで機嫌を損ねて僕の前に姿を表さないのか?いや、でもそれくらいで怒るような奴なら僕と半年も同じ屋根の下で暮らすようなことはできないだろう(これでも自分の性格はわきまえているつもり)。
それに、僕はアイツが本気で怒ったところなんて今まで一度も見たことがないし。
「………」
でも、もしかしたら……。僕が思考に耽っていると、部屋のドアをノックする音が聞こえ、さっきまで探していて、今の今まで考えていた人物が顔をのぞかせた。
「リオン、晩メシだってさ。食堂へゴー」
いつもと変わらない言動。やはり怒っていたというのは勘違いだろう。
そのまま二人(と一本)で食堂へと向かった。
「お前、今までどこにいたんだ」
ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「えー、なんだよ。俺がいなくてさみしかったのか?」
「違っ……。ただいつも人の視界に入ってる目障りな奴がいなかったから、聞いてみただけだ」
そうだ。ただそれだけ。一人の時間が妙に静かだと思ったのは気のせいだ。
「ま、ちょっとなー。後で教えてやるよ」
話しているうちに食堂に着いた。何故か促されて中へと入ると、いつもと比べてえらく豪華な料理が並んでいた。
そして両脇にはコックとメイド達が揃っていて、
「「「「「リオン様、お誕生日おめでとうございます!」」」」」
一礼と共ににこやかに言われた。
「い、一体これは………」
「あはは!サプライズ〜♪」
後ろから、心底面白そうなシェイドの声が聞こえてきた。
「いや、マリアンにさぁ、今までマトモに祝ったことないって聞いたから、これはぜひともやらねばならんだろうと思って」
突っ立ってないで座れよ、と言われて席に着くと、目の前には見事に僕の好物ばかりが並んでいた。
コックの一人が料理を見て唖然としている僕に話しかけてきた。
「本日の料理は全てシェイド様の指示のもとに作らせていただきました」
「ちなみにリオンの苦手な食べ物は全く入れてないぜ。好物を揃えさせてもらった。ま、今日くらいは、な」
あぁ、ずっと厨房にいたから見つからなかったのか。
……………ってちょっと待て。
「なんでお前が僕の好みをしっている?」
僕は言った覚えはない。マリアンに聞いたにしても、彼女もここまで把握はしてないはずだ。
「そりゃ半年も一緒にメシ食ってたらに覚えるってー。俺、記憶喪失だけど記憶力はいいから」
「………」
記憶力の問題………なのか?コイツ実は洞察力も鋭いのか?
「なーに驚いてんだよ。これは別にサプライズのつもりじゃなかったんだけどなぁ………。
ま、いいや。皆も座って!食べようぜ!」
シェイドの一言で、使用人達も全員席に着いた。コイツらはたしか、同じ卓についてはならないんじゃなかったか?
「おい、いいのかこれは?」
問うとシェイドは片手をヒラヒラさせながら、
「あー、だいじょぶだって。今日はヒューゴ様帰って来ないし、レンブラント翁も料理長もマリアンも抱き込んだし。あとは、お前が目を瞑ればいいハナシ」
と、のたまってくれた。まったく、本当にとんでもない奴だ。一歩間違えは職務怠慢として罰せられてもおかしくないのに、それをかわす方法をきちんと心掛けている。
僕が了承の意を表すように口の端を上げると、シェイドが立ち上がり、手に持っていかグラスをかかげた。
「では、リオンの十六回目の生誕の日を祝して、乾杯!」
あちこちでグラスを合わせる音が響いた。
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