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轟々と、まるで濁流のように降りつける雨。これは今夜は止みそうにないだろう。
俺は運良く見つけた洞穴にリオンを寝かせ、焚き火を付ける。
「……『ヒール』」
『!!?』
シャルの息を呑む音が聞こえる。そういえば、晶術使えるって言ってなかったなぁ……。
「顔色、悪いな……」
傷は回復させたものの、苦痛の表情は消えない。一体何があったのか……。
(そういえば……)
あのモンスターの中には、珍しく毒を持つ奴がいた。もしかしから、それにやられたのかもしれねぇな……。
「……『リカバー』!」
呪文と共に俺の手から溢れ出した光が、リオンの体を包み込み、
『あっ、良くなったみたいだね……』
安堵したシャルの声で、ようやく肩の力を抜く。
だが、意識はいまだ戻らないようだ。
『あの……』
シャルがためらいがちに声をかけてくる。あぁ、これは晶術のことと……、
『シェイド、君は…「シャル」
俺自身のことを聞きたいんだろうな。
「ごめんね、記憶喪失なんて嘘ついて。……ホントは、全部覚えてるんだよ。でもこのことは、皆には秘密にしてほしいんだ。もちろん、リオンにも、ディムロス達にも」
だから、昔のしゃべり方で話してやる。これでわかるだろう?
『シェイド……!!でもどうして……って、失言でしたね……』
「ま、そのうち色々話すよ」
火のパチパチと弾ける音と未だ降り続ける雨の音だけが、洞穴に響く。
しばらくは、どちらも何も話すことなく、時間だけが過ぎていったが、しばらくして、リオンがうなされていることに気付いた。
「……リオン?」
寒いのか、心なしか震えているような気もする。
『ねぇ、シェイド。昔みたいに、アレやってあげたらどうですか?』
え、アレって……アレか?いやアレはリオンにはまずいんじゃないか?っつか、何回アレって言うんだよ?
おそらくかなり恥ずかしがる……ってかバレたら俺の命が危ない気がする。確実にシャルの錆になる。
おぉっ。何か地味に俺のテンションも戻りかけてきた。
『大丈夫ですよ。坊ちゃん、一時起きそうにありませんし。……それにアレ、安心しますよ。僕たちは皆よく眠れたし』
「そうだったのか?俺はただ……」
人間の体温を感じていただけ。
今、そこに自分が生きているんだって、感じたかっただけ。
『ほら、何て言うか……母親に守られてる気分っていうんですか?』
「ふぅん……俺にはよくわかんねぇけど……ま、寒そうだし、ちょうどいいか」
そういってリオンを抱き寄せ、座り込んだ俺が抱き込むように頭を俺の胸にもたれさせる。
その姿は、普段の精一杯背伸びしたリオンとは違って……。
「まだ、十五歳なんだよな」
大人の下で庇護されておかしくない年齢。
ただの、子供。
そんな彼は、あと一年で、たった十六年という短い生涯を終え、死んでしまう。
(未来を知っている俺なら、それを変えることが出来る)
生憎、諸事情により記憶力はムカつくほどよい。どこで何が起こるかはしっかりと把握している。人死にを未然に防ぐことも可能だ。
(だけど……)
本当に俺が動き回ってもいいのかが、わからない。
本来の時間軸には存在しなかっただろう俺が、ここにいてもいいのか?
(それに……)
予測出来ない未来は怖かった。
俺の行動一つで、事態がより悪い方へ転がったら?
死ななくて済んだ人が死ぬかもしれない。このまま俺が関わっていけば、果ては、神の眼を巡る戦いに多大なる影響を及ぼしかねない。
(何も…できねぇよ……)
柔らかなリオンの髪を梳きながら、抱いていた腕に力を込める。
『……シェイド?』
(ごめん……ごめん。ごめんなさい…!)
俺には、お前は、救えない。
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