4 轟々と、まるで濁流のように降りつける雨。これは今夜は止みそうにないだろう。 俺は運良く見つけた洞穴にリオンを寝かせ、焚き火を付ける。 「……『ヒール』」 『!!?』 シャルの息を呑む音が聞こえる。そういえば、晶術使えるって言ってなかったなぁ……。 「顔色、悪いな……」 傷は回復させたものの、苦痛の表情は消えない。一体何があったのか……。 (そういえば……) あのモンスターの中には、珍しく毒を持つ奴がいた。もしかしから、それにやられたのかもしれねぇな……。 「……『リカバー』!」 呪文と共に俺の手から溢れ出した光が、リオンの体を包み込み、 『あっ、良くなったみたいだね……』 安堵したシャルの声で、ようやく肩の力を抜く。 だが、意識はいまだ戻らないようだ。 『あの……』 シャルがためらいがちに声をかけてくる。あぁ、これは晶術のことと……、 『シェイド、君は…「シャル」 俺自身のことを聞きたいんだろうな。 「ごめんね、記憶喪失なんて嘘ついて。……ホントは、全部覚えてるんだよ。でもこのことは、皆には秘密にしてほしいんだ。もちろん、リオンにも、ディムロス達にも」 だから、昔のしゃべり方で話してやる。これでわかるだろう? 『シェイド……!!でもどうして……って、失言でしたね……』 「ま、そのうち色々話すよ」 火のパチパチと弾ける音と未だ降り続ける雨の音だけが、洞穴に響く。 しばらくは、どちらも何も話すことなく、時間だけが過ぎていったが、しばらくして、リオンがうなされていることに気付いた。 「……リオン?」 寒いのか、心なしか震えているような気もする。 『ねぇ、シェイド。昔みたいに、アレやってあげたらどうですか?』 え、アレって……アレか?いやアレはリオンにはまずいんじゃないか?っつか、何回アレって言うんだよ? おそらくかなり恥ずかしがる……ってかバレたら俺の命が危ない気がする。確実にシャルの錆になる。 おぉっ。何か地味に俺のテンションも戻りかけてきた。 『大丈夫ですよ。坊ちゃん、一時起きそうにありませんし。……それにアレ、安心しますよ。僕たちは皆よく眠れたし』 「そうだったのか?俺はただ……」 人間の体温を感じていただけ。 今、そこに自分が生きているんだって、感じたかっただけ。 『ほら、何て言うか……母親に守られてる気分っていうんですか?』 「ふぅん……俺にはよくわかんねぇけど……ま、寒そうだし、ちょうどいいか」 そういってリオンを抱き寄せ、座り込んだ俺が抱き込むように頭を俺の胸にもたれさせる。 その姿は、普段の精一杯背伸びしたリオンとは違って……。 「まだ、十五歳なんだよな」 大人の下で庇護されておかしくない年齢。 ただの、子供。 そんな彼は、あと一年で、たった十六年という短い生涯を終え、死んでしまう。 (未来を知っている俺なら、それを変えることが出来る) 生憎、諸事情により記憶力はムカつくほどよい。どこで何が起こるかはしっかりと把握している。人死にを未然に防ぐことも可能だ。 (だけど……) 本当に俺が動き回ってもいいのかが、わからない。 本来の時間軸には存在しなかっただろう俺が、ここにいてもいいのか? (それに……) 予測出来ない未来は怖かった。 俺の行動一つで、事態がより悪い方へ転がったら? 死ななくて済んだ人が死ぬかもしれない。このまま俺が関わっていけば、果ては、神の眼を巡る戦いに多大なる影響を及ぼしかねない。 (何も…できねぇよ……) 柔らかなリオンの髪を梳きながら、抱いていた腕に力を込める。 『……シェイド?』 (ごめん……ごめん。ごめんなさい…!) 俺には、お前は、救えない。 [back][next] [戻る] |