何年も平和な世界で、戦いなんかとは無縁な日々を送っていたから、多少なりとも判断力が鈍っていたんだろう。

「……!…リオンッ!!」

兵士が逃げる道を作り、今だ戦っているだろうリオンの元へ駆け付けた俺が見たものは、

『シェイド!!坊ちゃんが……!』

血塗れで倒れた黒髪の少年の姿。

―――り、おん……?

それを認識した時、俺の中で何かが弾け跳んだ気がした。
ゆらりと振り返り、モンスターへと剣を向け、

「仲間を傷ける奴は……許さねぇ……」

苦しむ間も与えず切り捨てた。
そこからの記憶はほとんどなく、気が付いた時には血と、モンスターの死骸と、レンズが散らばる中で、俺は一人佇んでいた。
ぽたりと頬に水滴が流れる。

「雨……」
『シェイド……大丈夫ですか?僕の声、聞こえてますか!?』

切羽詰まったようなシャルの声で、ようやく今の状況を思い出す。

「……リオン…!!」

慌てて駆け寄り、首筋に指をあて脈をとる。
……よかった、生きてる。
とにかく、こんな雨の降る中じゃ体力を消耗するだけだから、どこかに移動しないと……。
そう思って俺はリオンを抱き上げた。

『あぁ……!やっと元に戻ったんですね!!ずっと呼んでたのに全然反応してくれなくて……』
「え?そうなのか?ゴメンな、シャル……」

呼ばれて……?ダメだ、全く覚えてないし。血塗れのリオンを見て、頭に血が上って…。そうだ、こいつら許せねぇって、皆死んじまえって、一瞬で殺してやったんだ…。どうせならもっと苦しみながら死なせてやればよかった。だってリオンを、仲間を傷つけた…『シェイド!!』

はっ、と自分を取り戻す感覚。また思考が沈んでたみたいだ。
頭をふって、余計な考えを追い払う。

「もう、大丈夫。……行くか」

今は、この腕の中の命を消さない事だけを考えなきゃならないから。



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