3 俺が今いるのはヒューゴ邸の門前。ここまでの話がまた長いんだが、箇条書きにしてみると、 ・中庭でイスアード将軍と手合わせ。 ・互角の戦いを繰り広げていたけど、このままじゃ埒があかないと思い、相手に敬意を払って降参の意を表した。 ・ところ、イスアード将軍にめっちゃ気に入られる。 ・その上、ちゃっかり見ていた国王+その他の七将軍達にも気に入られる。 ・さらにその上偶然王城に来ていたヒューゴにも気に入られる。 ・そろそろお暇しようかなーと謁見の間に行った所、俺の客員剣士就任&ヒューゴ邸での居候が決定していた。 ………というわけで、俺はリオンと共にヒューゴの屋敷までやって来たのだ。 「でか……」 画面越しには分からなかったスケール。想像以上の豪邸だなぁ。 でも、豪華絢爛としている訳じゃなく、なんていうか閑静な豪華さっていうか…。 そんなことをつらつらと考えている間に、リオンはとっとと中に入ってしまう。 ここが今日から俺の家になるんだからな。来る度毎回怯んでちゃゆっくり休んでらんないっての。 「ちょっ、待てよ」 慌てて俺も付いて行く。 「マリアン、いないのか!」 馬鹿でかい扉をくぐって聞こえてきたリオンの声。うわ、ナマで聞いてしまったこのセリフ。 そしてやってきたのは清楚で美人なメイドさん。 「おかえりなさい、リオン。……あら、そちらは?」 「俺は…「今日から居候することになった奴だ。本意ではないがヒューゴ様の命令だからな。だが、別に名乗るほどの者じゃない」 いや、そんな言い方しなくても……。嫌われてんなぁ。 「もう…そんな言い方してはダメよ。はじめまして。メイド長を勤めさせていただいております、マリアン=フュステルと申します」 めっちゃご丁寧な挨拶をしていただいてしまった。でも、こんな堅苦しい話し方されちゃなぁ…。岩化した肩に鉄筋コンクリート固めされる気分だ。(いや分かりませんから) 「こちらこそお初にお目にかかります。本日よりこちらでお世話になるシェイド=エンバースという者です。ご面倒をお掛けすることも多いと思いますが、よろしくお願いします」 うっし、反撃完了。うん、やっぱりマリアンさんかなり困った顔してる。 「あの……シェイド様、私はただのメイドですからそんなに畏まらないで下さい」 「いえ、年上の方に敬意を払うのは当然のことです。それにメイドだからといって見下すような態度をとるつもりもありません。それだって立派な仕事ですからね」 「ですが……」 「どうしてもとおっしゃるなら……貴方が敬語を使わなければ、私も普段どおりに喋らせていただきますが?」 そう言って、ニッと口角をあげた。マリアンさんは仕方ないって感じで諦めたようだ。 「分かったわ。その代わり二人の時だけよ」 「ありがと、マリアンさん」 「私のことも呼び捨てで構わないわ。年上っていってもあんまり変わ…「いつまで話し込んでるんだ!」 一向にやってこない俺達に痺れを切らしたリオンが声を掛けてきた。あ、あの、かなりピリピリしてるように見えるのは気のせいではないように思えるんですが…(汗) 「あぁ、ごめんなさいね。とりあえず、シェイドの部屋に案内するわ」 マリアンがそういうと、オーラがますます暗くなっていく。あぁ、なるほど、そういう訳か。 「いいよ、マリアン。場所だけ教えてくんない?この時間だと忙しいだろ」 マリアン欠乏症だな。 俺が二人で喋ってるのが面白くないんだろ。 「え、そう?じゃあお言葉に甘えて。貴方の部屋は、二階の右から二番目の部屋だから」 「サーンキュ。あ、それと…」 こっそりマリアンの耳元に囁いた。 「少しリオンの話し相手してあげてくれよ。どうも俺のせいで機嫌悪いっぽくてさぁ」 「うふふ。わかったわ」 「さっきから何をコソコソ話しているんだ!!」 うわ、とうとう怒らせてしまったか?ここはとっとと退散すべし。 「いや、後で何着か服を見繕っておいてほしいって頼んだだけだって。あと、疲れたから晩ご飯いらねぇって」 「ええ、服は後で部屋に持って行くから」 ナイスだマリアン。フォローありがとう! 「んじゃリオン、シャル、先に休ませてもらうな。お休みー」 『おやすみなさい、シェイド』 「………」 あ、顔逸らされたし。 んまぁいっか。しばらくしたら少しくらい会話してくれるだろ。嫌が応でも毎日顔突き合わせる事になるだろうし。 俺はそのまま自分にあてがわれた部屋へと向かった。 途中でふと振り返ってリオンの方を見ると、俺の時とは大違いな軟らかい表情でマリアンと話をしていた。 その表情は本当に年相応で………たった十六年の命なのだと思って見ているとなんだか悲しくなった。 だがその夜、マリアンが持ってきた服が全て女物だったのを見て、俺はますます悲しくなった。というか八つ当たり気味に喚き散らしたというのは、また別の話。 [back][next] [戻る] |