「これはお前がやったのか?」

まだ高さの残る声が問いを投げ掛けてくるが、必死にその仮定を認めまいと一人奮闘している俺の耳には届いていなかった。

(そうだ、きっと他人の空似ってコトもある。自分の世界が空想上に成り立っているなんてさ、普通に考えても有り得ないだろ。俺は……俺達はただのゲーム上のキャラクターなんかじゃない。あんな残酷すぎる運命が定められたものだなんて、逃れられないなんて、信じられるわけが)

「おい、聞いているのか!」
「え、な……なんだ?」

いつまでたっても返事をしないからか、とうとう痺れを切らした少年に怒鳴りつけられた。

「こいつらを倒したのはお前かと聞いているんだ!」
「ああ……うん。そうだよ、俺がやった。気絶させただけだから怪我はしてないはずだけど」

そう言うと、少年の視線ははますます訝しげになる。

「一人でやったのか?」
「そうだけど。もしかして、お前が客員剣士?」
「そうだが……だからなんだと言うんだ」
「たぶん俺、お前の仲間に間違われたっぽくてさぁ。コイツら、客員剣士がどうこうって言ってたし」

淡々とした、味気無い会話の応酬が続く。が、それも次の少年の言葉で打ち破られた。

「フン、こんな弱そうな女が僕の仲間なはずがないだろうが。頭の悪い奴等だ」
「ちょーっと待て、少年」

それは聞き捨てならないセリフじゃないデスカ?というわけで、ガシッと相手の肩をわしづかみ、しっかり目を合わせて言ってやる。

「だ・れ・が、女だ。俺はれっきとした男だっつーの」
「『男……!?』」

ん〜?
目の前の少年以外の声も聞こえたような気がするんだが。

「そっちの方がよっぽどキレイな顔してるくせに」
「……何か言ったか?」

チョット……いや、かなり殺気を含んだ鋭い眼差しを向けられて、俺は慌てて首をブンブン振る。どうやら女顔コンプレックスの仲間らしい。同士は大切にせねば。

「フン、まあいい。これから一緒に城まで来てもらうぞ。いざ倒しにきた山賊が得体のしれない人間に既に殲滅されていました、なんて報告できるものか」
「ここで俺が一通りあったことを伝えて、それを報告するってのがお互いにとって一番手間が少ないと思うんだが」
「僕の手間が圧倒的に多い。それに、こんな不審人物を野放しにしたまま帰ると思うか?」
「普通はしないわな」
「わかっているのならこれ以上時間を取らせるな」
「イェッサー、たいちょー」
「誰が隊長だ。……そういえば、お前の名はなんだ?」

名前……そうだ、ここで名前を聞けば白黒はっきりつくじゃん。コイツが本当にあの”彼“なのか。
俺だって、もういい加減分かっているのかもしれない。ただ心がそれを認めたくないだけで。
そろそろ観念するべきか……。

「さっきから何を馬鹿みたいに惚けている?」
「馬鹿言うな。それより、人に名前を尋ねる前に、自分から名乗るのが礼儀ってもんだろ」

ただ単に、そのエラそうな態度がムカつくから、某赤服熱血少年のマネをしてみたり。

「……リオンだ。リオン・マグナス」

ああ、やっぱりそうなのか。
予想はしてた。理解もしてた。ただ、認めてたまるもんかと足掻いていただけで。
たまたま同じ名前だった、なんて誤魔化すのも限界だろう。もう認めざるを得ないんだな。
ここは、あのゲームと同じ流れを辿っていくであろう世界なのだと。


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