彩水様へ「ひろいもの」 それは、偶然リオンと二人で言い渡された任務の帰り道の事。 「……今すぐ元あった場所に捨てて来い」 呆れてますって視線と顔と態度で……むしろ持てる全てで意識的に訴えるリオンと、 「嫌だ。だってコイツ一人だったんだぜ?しかもあんなトコに捨てたら可哀相じゃん」 これだけは譲らないと腕組んでその呆れを真っ向から受け止める俺と、 「生き物はだめだと言ってるだろうが!勝手にソイツ自身の生き方に干渉してどうする!」 「じゃあいっそ息の根ごと止めて、物言わぬただの有機物の塊という扱いなら」 『もっとダメですから。倫理的に』 「……なぁ、お前らが今話題にしてんのって、もしかして俺の事か?」 俺とリオンの間に挟まれて、見るからにいたたまれない様子で座ってるものの、雲行きの怪しい会話に絶え切れずに訴える赤髪がいたり。 「もしかしなくてもそうだけど。ってか、鮮やかな草原の中にこんなん落ちてたら普通は思わず拾って持って帰りたくなる心情なオトシゴロってあるし?」 「あってたまるかそんな微妙な時期が。僕は薪を拾って来いとは言ったがな、こんなデカいのはいらん!」 「いいじゃん、人間ってけっこう油分多いぞ。水分も多いけど」 「燃やされるのかよっ!?ってか、俺自身の意思は無視かッ!?」 『あの〜、できたらそろそろ真剣に彼をどうするか考えてあげませんか?』 「そうだって!大体お前ら誰なんだよ?しかも、どこだここ?」 その発言に、思わずリオンと二人で赤毛なコイツを凝視。 「……あー、お前名前は?ちなみに俺はシェイド。こっちの無愛想で高飛車な顔だけよくて性格がツイストしまくってる少年は、マリコン坊ちゃん、もしくはサブネームとして、プリンは世界を救う会会長☆とでも呼んでやっ」 「リオンだ。この馬鹿の突拍子もない発言は聞く必要はないからな」 「えっと、俺は……ルーク、だ」 「できればフルネームでよろしく」 「……ここがどこかもわかんねぇのに、迂闊に名乗れるかよ。敵国だったらヤベェじゃん」 と言って、こっちに向ける訝しげな視線。 「あっれ、何も考えてなさそうで、意外に頭使ってるタイプ?でも敵国って……」 俺の意外発言にぎゃんぎゃん騒ぐ赤毛を押さえ付けて、真顔でリオンに向き直る。 「もしかして、アクアヴェイルの奴か?」 「あの国でこの髪と眼の色は珍しすぎないか?あと他国っつったらファンダリアかもだけど……別に敵国ってほど深刻な対立はしてないし、第一雪国出身でヘソ出しは有り得ねぇだろ」 「え、ちょ……どこだよそれ!ここってキムラスカなのか?マルクトなのか?」 「「『………』」」 これはもしかすると……もしかする? 「……シェイド、いい加減に捨てて来い。訳のわからん発言をするのはお前一人で十分だ。むしろ十分すぎて迷惑だ」 「毎日が刺激的で楽しいだろ?脳の活性化にも役立って、将来的な認知症予防にも役立つぞ」 「そうなる前に僕の精神がダメになるだろうがっ!」 「なにヤワな発言かましてんだテメェッ!繊細とかナイーブとか神経性胃炎とか十二指腸潰瘍っていう単語はお前には無縁だってのが、俺と陛下とイスアード様の意見なんだぞ!?」 『あのー、だから彼をどうするかちゃんと話し合いましょうよ。痴話喧嘩もどきは後にして』 「あ、ちなみにシャルもな?」 「……シャル」 『ギャァァァァッ!!ゴメンナサイスイマセン調子のってました!!お願いだから焚き火に落とさないでぇぇェッ!!』 シャルがベストな位置で炎の先にあぶられてるのを見て、ルークがキョロキョロと辺りを見回す。 「な、なぁ、この声一体何なんだ?どっかにもう一人隠れてんのか?」 うーん……これは伝えるべきか否か……というわけで、チラッとリオンの方を見ると、(シャルをあぶる手はそのままに)返って来るアイコンタクト。あれ、俺らっていつからこんな器用な事できるほど仲良くなったっけ? 「とにかく、もう一度薪を集めて来い。それとしつこいようだがそれも元いた場所に捨てろ」 「嫌だっつってんだろ」 「自然の中で拾った物は自然に帰すべきだろうが!野生動物は一度人間社会に慣れたら、もう森には帰れないんだぞ!」 「だから俺は一体どういう扱いなんだよッ!!」 何、ルークはこの場に置ける自分の確固とした役割が欲しいと?(誰もそんなことは言ってねぇ) 「もう、私はあなたにはついていけません…っ!この子と一緒に出て行かせてもらいます!!」 「勝手にしろ!お前のような奴はこっちから願い下げだ!実家だろうがどこへでも好きに行けッ!!」 「ちょ、何でいきなり夫婦喧嘩風に……って、子どもは俺かぁぁぁッ!!」 何事か叫ぶルークの腕をがっしと掴み、森の方へと猛ダッシュ。 「そしてシャルはペットのポチだーーー!!」 『僕、犬ですかッ!?』 「甘いなシャル。アイツの事だ。ポチという名のニシキヘビかイグアナかタランチュラあたりだろう」 『何でそんな変なのばっかり!?』 というやりとりが走り去った野営地で行われてたとは知る訳もなく、俺は引っ張ってきたルークと暮れかけの森をぶらぶらと歩いていた。 「い、いいのか?俺のせい(?)であのリオンって奴と喧嘩になっちまって……」 「いや、別に気にする必要ねーよ。俺も向こうも友人同士の戯れ程度に遊んでただけだ。いつものコミュニケーション」 たぶんリオンもわかっててノッたんだろうし。 「友人か……なあ、普通の友達ってそんなカンジなのか…?」 「は?」 「いや、だからさ……何ていうか……」 ちょい待て。何だそのものすごく寂しい奴発言はッ! 「ルーク……!」 離してた手を再びガシッと握ってみたり。 「お前……友達いないのか……」 「な、違ぇよッ!!ただ、あんな風に誰かと接した事なかったし……父上もラムダスも、自分の立場をわきまえろっていっつも言ってたし、一緒に旅してる奴は天然とか腹黒とかばっかで主に俺が遊ばれてばっかだし……」 コイツ、今自分が寂しい奴ですって告白してるコトに気付いてねぇのか? 「っていうかさ、さっきのポチだかシャルだかってのは何なんだ?やっぱ誰かいたのか?」 おっと、話題がそこにきたか。 「いや、ただのペットのカモノハシ。とりあえず気にすんな?」 「かもの…?」 「単孔目カモノハシ科の卵生のくせして哺乳類に分類されるっつー謎な生物。主に水辺とかに穴掘って住んでんだけど……まぁ、とにかく気にすんな?」 「え、でもこの辺りに川とかって……しかも喋って…」 「気・に・す・ん・な・?」 「お、おう」 それ意向は特に何か発言するわけでもなく、ルークは黙々と薪拾いに専念したようだった。え、誰のせいだって?んなのルークの自発的なもんだろー。俺は一切脅したり睨み付けたり凶悪な笑みを浮かべちゃいないさ?(爽) 「あの、さ……発言しても構いませんデショウカ?」 ……前言撤回。少しビビらせすぎたようです。 「何だ?」 「ここ……マジでどこなんだ?俺、確かにシェリダンの宿のベッドで寝てたはずなんだ。なのに、起きたらいきなり森ン中で……あの辺は荒地ばっかで、海を越えなきゃこんな緑のあふれたトコになんて……」 キムラスカにマルクト……今度はシェリダン、か……。 「あのな、ルーク。今更ながら説明させてもらうけど、この世界は国と呼んでも差し支えない地域が五つほどあるが……キムラスカとかマルクトなんて国は、存在しない」 「………え?」 「考えられる可能性は二つ。一つは、お前がどっかで頭打って元々そんなに使えない頭がますますパーになったり、絶え切れないほどの精神的な苦痛から心が現実逃避なランデブーに突っ走ったりして妄想の中で独自な世界を作り出してるとか」 「人を異常者みたいに言うんじゃねぇッ!!しかも意味不明な上に俺に対して失礼だっつの!!」 まぁな、可能性として言ってみただけであって、これが当たってるとは俺だって思ってねぇし。 「だってなぁ……もしそうならわざわざ妄想の中でまで友達のいない寂しい世界は作らんだろ。どんだけ不幸に浸りたいんだテメェはってカンジで張り倒したくなるし、なぁ?」 「友達云々は放っとけッ!むしろ触れるなッ!!」 うん、とりあえず悲しい奴だという認識だけは深まったな。 となると、考えられるのはもう一個の方で……。 「あるイミ俺の同類か……」 「え、何て…?」 「異世界の人間だって事。俺達にとってのお前が、そして、お前にとっての俺達が……」 「異、世界…?」 俺だって、一回地球にぶっ飛ばされた経験なかったら、絶対にこんな発想はしなかったと思う。これでも現実主義者だからな。 「じゃあ、俺……一人なのか……?」 この発想も、俺自身が初めて吹っ飛ばされた時のと似てる。 「……大丈夫、きっと帰れる。実際、帰ってこれた俺っていう前例もあるし」 「!!……お、お前も……なのか…?」 「そーそー。同類でぶっ飛び経験者。類友ってよく言ったもんだよなー」 なんて軽く笑ってやると、無事に帰って来てる俺という存在にホッとしたのか、隣りで小さく息をつく気配。 「あ、今のはリオンには黙っとけよ。むしろ誰にも言うな。俺までお前と同じ(ちょっと頭のネジが十数本ごっそり抜けてる……むしろ残ってるネジ数えた方が早いんじゃねぇ?ってカンジの奴)だと思われると面倒だし不愉快だから」 「(ちょっとした軽口のはずなのに何かムショーにムカつくっつーか……)」 よし、ルークは見るからに前衛系弄られ体質兼ツッコミ寄り、かつ心の声は雰囲気だけ掴めるタイプと……心のメモに書き込むべし。 「(でも、もしかしたら沈んでる俺のためにわざとこんな軽く言ってくれたのかもしれないし……そうだ、きっとそうなんだ…!)えっ、と……ありがとな、シェイド!」 ……追記、ぷち天然純粋系なので無駄に澄みすぎた発言に注意、と。 [back] [戻る] |