浅葱様へ「勝利は敗北と紙一重」
それは、シェイドが地上軍拠点にやってきて早一年が経とうかという頃の、ある昼下がりの事。
地上軍改革運動も無事に終わり、上層部の一員としての仕事を片付けていると、突然部屋の扉が開いた。

「あらシェイド、ここにいたの」
「どうかしたのか?ハロルド」
「ちょっとね。私の質問に可及的速やか且簡潔に答えてちょうだい」
「??」

何を言われるのかと少しばかり身構えていると、

「1+1は?」
「2」

カシャッ

天上側で鍛えられた条件反射で答えると、何故か目の前のハロルドはカメラを構えていた。

「何でまたいきなり写真なんか」
「実はねぇ、美女コンの最終候補にシェイドが残っちゃって。それで、大々的に貼り出す写真が必要になったのよ」
「……………ん?」

書類を片付けていた手を止め、思わず固まってしまうシェイド。

「誰が、何に?」
「だーかーらぁー、シェイドが、地上軍美人コンテストに!」

シェイド自身、兵士達の間でそんなイベントが行われているのは知っていた。仮眠室に、一見募金箱のようにも見える投票箱が設置してある事も。

「俺、聞いてないけど」
「当たり前よ。言ってないもの。それに、開票したのはついさっき。仕入れたてホヤホヤの情報なんだから♪」
「というかソレ、『美女』コンなんだよな?……俺、男だけど」
「ほら、一か月くらい前にアトワイトと一緒に医療班で働いてたじゃない?あの時にアンタが介抱してやってた兵士達が、シェイドのスマイルで一気にオチちゃったみたいなのよ。すぐさまファンクラブが発足して、会員の人数も凄い事になってるわ。知らなかった?」

もはや着いて行けなくなったシェイドは、ペンを片手に茫然自失。

「し・か・も、今年はあのクソうるさいヒヒジジィ共が引退してくれちゃったから、大っぴらに開催する事になってね?あさって、最終投票直前に、候補者のちょっとした演説もあるから☆」
「ま、待てハロルド!こんな時にそんな事してもいいのか!?(←何とかやめさせようと必死)」
「あら、こんな時だからこそやるんじゃない。兵士の士気も上がるわよ〜♪」
「でも、しつこいようだけど、俺男だから!美女コンに出るのは無理だって!(←諦め悪い)」
「大丈夫よ。顔だけなら並の女よりは断然キレイなんだから。その男物の服着てたって誰も気付かないわよ。第一、投票した奴等は全員気付いてないワケだし」
「でも……他の女性陣は気分悪いだろ。男の俺と同列で扱われるんだし(←もはや藁にも縋りたい)」
「気にする事ないわよ。あ、そういえば…」

身も蓋もないセリフに、もう逃れる術はないのかとがっくり肩を落としたシェイドの耳に届いた言葉が、さらに奈落の底へと突き落とす事となった。

「アトワイトも残ってるから。最終選考」

間。

「……それ、かなり顔合わせ辛くないか?」





そして嫌だと思っている時ほど月日は矢のごとく速く過ぎ去り、件の最終投票日。

「あなたも不運ね……」
「言わないでくれ……俺自身十分に自覚してるんだから…(沈)」

日頃どんな事でもソツなくこなすシェイドがこんな風にうなだれている姿は、見慣れない分新鮮でもあるがどこか可哀相で、アトワイトは何とかしてやれないかと頭をひねる。

「ねぇ、いっその事、笑わないのはどうかしら?」
「笑わない?」
「ハロルドが言ってたんでしょう?シェイドの笑顔を見て兵士達がオチたんだって。なら逆に、ちょっと前みたいな無表情のあなたを見たら、票が集まるのを防げるんじゃないかしら?」
「でも、それで今がどうにかなる訳じゃないだろ」
「……甘いわね。今回優勝してしまったら、また来年からも同じ目に合うかもしれないのよ」

確かにアトワイトの言う事にも一理ある……と納得しかけていた時、

「それに私にも女のプライドって物があるの。男のあなたに負けるのは何だか屈辱だわ」
(そこが本音かアトワイト……)

シェイドが意外な彼女の一面を知ってしまった瞬間だった。

「……利害は一致してるわけだし、手を組むのもいいかもな。俺は今回さえ我慢すれば、来年からはこの災難から逃れられるし」
「ええ。私は女としての尊厳を保持できる」
「「よし」」

そして二人は強く頷き合った。





「シェイドー。アンタの番よ。軽く何か言ってあげたらいいから」
「ああ、分かってるよ」

アトワイトの生真面目な話の後、シェイドに手渡されたマイク。それを持って、拠点のほとんど全員が集まっているのではないかと思わせるくらい大勢の観客を前に、その口を開く。

「……お前たち、こんな事をしている場合じゃないだろう。何かしら娯楽が必要なのは分かるが、今は天上軍との戦いの最中だ。我々の働き如何で、頭上に広がる空を目にする事ができるかもしれないんだぞ。もっと気を引き締めろ」

淡々と、しかも、一時期ハロルドに能面とまで言われた無表情で言葉を紡ぐ。
一気にシンとなった観客達に、内心かなりドキドキしながら上手くいったか?と様子を見ていると、

「はいはーい、今回の演説は終了ー。後で投票用紙と箱をいつものトコに置いとくから、ぜひ皆さんの清き一票を☆」

何だか違うハロルドのセリフと共に、手を引っ張られて裏へと戻ってきたシェイド。

「懐かしいコトしたわねー。何でまた昔の話し方なんてマネしたのよ?」
「ああ、実は、」
「シェイド、これなら上手くいきそうね!」

戻ってきた二人の所へ、アトワイトが駆けて来る。

「何とか、な。あれだけ引いてたんだから大丈夫だろう」

ホッとした表情の二人にピンときたハロルドは、なるほど〜と腕組みをして頷く。

「票が集まらないように、ワザと昔みたいな無表情演じたってワケね?」
「そういう事。票が集まって、また来年も……なんて事になっても困る」

だが、そんなシェイドにむかって、ハロルドはフッと鼻で笑う。

「……甘いわね、シェイド」
「「え…?」」
「ぐふふっ☆投票結果が楽しみだにゃ〜♪」

そう言って去って行くハロルドの後ろ姿に、とてつもない不安を感じたのだった。





そして三日後、投票結果が貼り出され、それを見たシェイドは開いた口が塞がらなくなってしまう。

“獲得投票数一位、シェイド・エンバース”

「何で……?」
「ぐふふっ☆その理由、知りたい?」

そう言ってハロルドが差し出したのは、投票用紙の束。そこには、投票相手の名前だけでなく、理由や感想なども書き記されていた。
それによると……。

“シェイドさんクールビューティー!!”
“心温まる笑顔もステキですが、表情を殺した顔もお美しい…!”
“今すぐ貴方に苛められたい!”
“女王様って呼んでもいいですか?”
“シェイドさんカッコいいですね!私、ホレちゃいました!”
“ウチの旦那よりもよっぽど凛々しかったです!”

「………」
「どうもねー、ウチの軍ってばMっ気あるヤツ多いみたいで……ちょーっと心配になるコメントも多かったけど、まぁ、そこは置いといて。あと、女の人からの得票率が格段にアップしてたのよ。男として喜びなさい☆」
「よ、喜べないよ……結局は美女コン一位って事だろ」
「まぁ、栄誉ある功績よね?トロフィーとか楯とかないのは残念だけど、ありがたく受け取っときなさい。そ・れ・と、来年もヨロシクゥ☆」

結局足掻くだけ無駄な努力だったと知り、がっくりと肩を落とすシェイドだった。



そしてこの直後、ハロルドに引っ張られてディムロスがアトワイトを慰めるシーンを目撃するのである。








とりあえず完成!何か短く終わってしまいましたが、これでカンベン!







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