ゆに様へ「非日常的毎日」
ある日のヒューゴ邸での午後の事、俺はふと思い立った。

ばぁんっ!!

思いっきり扉を開けると、本を読んでいたらしいリオンが、何事かとこっちを見る。

「おい坊ちゃん!ちょっとシャル貸せよ。借りたからな。行くぞ少佐ーーーッ!!」
『え、何?何事?僕、拉致られ?』
「………」

バタンッ!!バタバタバタ……

俺が出て行った部屋の中で、リオンが何事もなかったかのように読書を再開した事を、幸運な事にシャルは知らない。ま、日常茶飯時だしなー。

『で、今日はまたどうしたんですか?』
「ん〜、かくかくしかじかでなぁ、こうこうああなんだよ」
『なるほど……って、分かるわけないでしょ……』

おお!シャルがノリツッコミをマスターした!!

「まぁ、とりあえずはれっつら城?今日の全てはそこから始まるのさ…!!」
『遅い始まりですね。もうお昼過ぎですよ?』

とこんな会話をしている間に、セインガルド城に到着。
お、丁度いいタイミングで目標物発見☆

「イスアード様!二日振り!!」
「おお!シェイドか!!今日はどうしたのだ?また手合わせでもするのか?」

剣の練習でもしてたのか、額の汗を拭いながら、こちらに向かって歩いてきた。

「いやいや。今日は、かくかくしかじかでな、こうこうああという訳でして、イスアード様にも手を貸していただきたいなぁ……と」
『だからシェイド、分かりませんって……』
「おお、うんたらかんたらとな!それは面白い!!ぜひ私も協力しよう!!」
『Σええっ!何で!?』

それは、俺とイスアード様の深い心のシンクロ率を表しているのさ。(嘘)

「だが、もう少し強力な後ろ盾があった方がいいかもしれん……国王にも一枚噛んでもらうか!」
「さっすが七将軍!!頼りになるぜ!」
『っていうか、一国の王にそをなコト要請しちゃっていいんですか!?何するのか分かりませんけど!!』

シャルの叫びをさらっとスルーして、俺達はれっつら謁見の間。

「国王陛下、一週間ぶり」
「おお、シェイド、それにイスアードも……どうかしたのか?」
「実は、かくかくしかじかで、こうこうああというわけで……面白そうでしょ?」
「何と!うんぬんかんぬんか……よし!私も一肌脱いでやろう!!」
『だから何で……って、もうツッコむだけムダなんですよね……』

諦めの境地に突入しているシャルはやっぱりスルーして、俺達の作戦会議は着々と進んで行く。

「だがどうやって……すると?」
「そこは陛下が……で」
「いっその事……したらどうだ?」
「Σええっ!?それじゃあ……じゃないですか!」
「しかし向こうは……だろう?」
「よし、決定じゃ!おい、誰か!!ヒューゴ邸の客員剣士リオン=マグナスを連れて来い!緊急任務だとな!!」
『Σ何がどうなって坊ちゃん呼び出しに至ったんですか!?』

うん?それは後のお・た・の・し・み☆
さってー、準備準備〜♪





のどかな休日を、お茶を飲みながら読書をしていると、突然やってきらシェイドがシャルを拉致って嵐のように去っていき、ツッコむだけ時間の無断だと放っておいたら、今度は城の兵士が慌てた様子で任務を言い渡してきた。
……果てしなく嫌な予感がするのは僕の気のせいか?シェイドを放っておいたのは間違いだったか?

「……で、任務とは?」
「うむ、要人の警護を頼みたいのだ。ノイシュタットのある貴族の娘なのだが……」

?……その歯切れの悪さは一体何だ?

「実はな、極度の男性恐怖症なのだ」
「………………………は?」

それで何で僕がこの任務に就くことになるんだ?

「そこでだ。今回の任務では、リオン、お前には女として…「お断りします。断固拒否します。では失礼します」

馬鹿馬鹿しくてやってられるか…と踵を返すと、出口はいつの間にかいたイスアード様と数人の兵士にがっちり固められていて、

「お前に拒否権はないのだ。諦めて引き受けろ」
「ッ……冗談じゃない!何で僕が!!ならミライナ様が行けばいいでしょう!彼女は女性なんですから…!!」
「ミライナは今、魔物討伐に出ていて不在だ」
「ならば他の七将軍や兵士は!!」
「あんなガタイのよい奴等が女装して来たら、相手方の男性恐怖症はさらに悪化するのみだと思うのだが?」

チッ……次から次へと往生際の悪い……(それはお前だ)

「……!!ならシェイドはどうしたんです!?僕よりアイツの方がよっぽど女顔でしょう!!」

と言った途端、国王の表情が少し揺れたのを見て、僕は確信した。

「シェイドは……まぁ、別の任務に出て貰っておる」

逃げたな。

「さぁ、これ以上時間を潰す訳にもいかん。準備を始めて貰うぞ!」

そう言ってパンッと手を叩くと、閉ざされていたはずの扉が開き、そこから十数人のメイド達が……。

「さぁ、リオン様。こちらへ!」
「お召し物はどうしましょう?やっぱりドレスですか?」
「あらダメよ。護衛として赴くんですから、動きやすい服でないと……いっそ、膝上ミニ?」
「ああ……まさか憧れのリオン様にお化粧ができるなんて……!!」

抵抗する術なく、ズルズルと引きずられて行く。それを見ながら、国王とイスアード様が生暖かいまなざしで親指を突き出していた。……貴様らグルか……生きて帰って来たら切り捨ててやる……。

「シェイドーーーッ!!帰って来たら覚えていろーーーッ!!!」

王城に、虚しくも叫び声だけが響き渡った。





『うわっ……えっ……と、坊ちゃん、ですよね?』
「……激しく不本意だがな」

シェイドが預けて行ったというシャルを受け取り、貴族の娘が待っているという港へと向かう。

『また……可愛くなりまし…「それ以上言った時点で海に放り投げる。海底で孤独を愛したいのなら話は別だが?」
『スミマセンデシタ(平謝り)』

イライラを押し込めながらも、手渡された予定表というのに目を通した。

「港で出迎え、その後は街を案内して、夕刻には王城へ送り届ける、か……チッ……どうして僕がこんな事を……」

大体、男性恐怖症が、護衛もつけずに単独でここまで来るなど信じられん!
と、港が近付いて来て、僕はハッと足を止める。
人の多いその場所で、一人だけ何故か際立って見えたのだ。

『彼女、ですかね…?』
「出迎えが遅れたようだな」

あんな風に一人でいては、すぐに面倒な輩に絡まれるかもしれないと、急ぎ足で近付いて行った。

「失礼だが、お前がアリス=バレンタインか?」

振り返った女は、誰もが振り替えるほどの調った顔をした、そこらでは見ないような、所謂美人だった。その、海風に吹かれる長い蜂蜜色の髪を押さえながら、何故か僕を見て固まっている。

「……違うのか?」
「あ、いえ……そう、です。あなたが、今日の護衛を引き受けて下さった方…ですよね?
お名前を伺っても…?」

そこでハッと気付く。
リオンの名前は名乗れない。ノイシュタットでも大概有名であるて自負しているのもあるが、思い切り男の名だ。エミリオ、も……ここでは名乗りたくない。
そして、とっさに口を突いて出た名は、

「カトレット……だ」

母方の名字だったりする。

「そう、カトレットさん……いいお名前ですね。よろしく。では、そろそろ行きましょうか?今日は護衛、お願いしますね」





案内すると言っても、僕はそういう場所などにはあまり興味がないので案内のしようがなく、結局は街を散策するこのアリスとか言う女の後をついて行くだけだった。
正直言うと、こんな姿で街を出歩くくらいなら、今すぐ屋敷に帰りたい。(切実)

「あの、カトレットさん。ちょっとあのお店で休みませんか?お茶でも……」

しかももう一つ腹の立つ事に、この女は僕より背が高かった。おそらく、シェイドくらいはあるんじゃないだろうか。

「カトレット…さん?」

うっかり睨み付けていたようだった。

「いや……構わない……」

そのまま二人して、喫茶店へと入って行った。
しかも、なぜかアリスは、店の甘味を片っ端から注文して、そのくせ自分はほとんど手を付ける事なく、僕に食べるように勧めてきた。
……まぁ、この時ばかりは女の格好をしている事に感謝したが。
そして夕刻、僕は城の前までアリスを連れて行った。

「今日は本当にありがとうございました。とても楽しかったです」

僕としては、身も心も疲れ果てた気分だ。こんな事なら、モンスター討伐の方がどれだけ楽な事か……。

「カトレットさん、本当にありがとうございました!」

そう言って城へと姿を消したアリスを見送って、僕も屋敷に帰ろうと踵を返した。

『坊ちゃん、服!お城に置いたままですよ!』

シャルにそう言われて、慌てて城へと取って返す。こんな姿を、マリアンや、ましてシェイドに見られる訳にはいかない。
だが、謁見の間の近くを通った時、聞き覚えのある声が聞こえて、足を止める。

「……も、ダメ……どれだけ笑い堪えるの必死だったか……」
「ご苦労だったな。なかなか面白かったぞ」
「それにしても化けたものだ。リオンもだが、シェイド、そなたも……」

バァンッッ!!

謁見の間の扉を思い切り蹴り開けると、そこには、国王と、イスアード様とそして、アリスと同じ服を着た、青銀色の髪の人物。

「なるほど……そういう訳ですか……今日一日楽しんで貰えたようで……」

にぃっこり

「あー、これはその……」
「…………誰の提案だ」

ドスのきいた声で問い掛けると、ジジィ二人が同時にシェイドを指差す。(口悪いですよ)
聞くまでもなかったか……。

「今すぐそこに直れッ!!貴様の望み通り、二度と朝日を拝めなくしてやろうじゃないか!!」
「ちょ、待て。少し落ち着けカトレットさんッ!!」
『まだ軽口叩ける余裕あるみたいですね』
「だな。今日という今日こそコイツの馬鹿を矯正してやる……」
「え、それってもしかしなくても俺あの世行き?」
「そうだ。問答無用で地獄限定だがな……」
「イ、イスアード様っ!陛下っ!!」
「「グッドラック、シェイド」」

ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!





その後ダリルシェイドの街で、稀に見る美人な二人組のブロマイドが売り買いされていたという噂が、あったとかなかったとか。








リクエストにお答えできていない気がする…。も、申し訳ありませんっ!!(勢いよく土下座




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