散華の夢は儚く淡く 「…生きたい 生きたいんだ…!」 今の彼ではあり得ないくらいに強く、掌は自らを掴んで離さなかった。 生にしがみつく人の刹那は刻に恐怖を覚える程、強い。 「あの人はまだ必要とされているのに、なのに、」 だがそこまでが限界で。霞んだ視界は力すら彼から奪って、返してはくれなかった。口元に押し当てた布が朱く染まるのを止める術を、自分は知らない。 「誰か、迅が!早く来てよ!早く!」 神様は何故、彼から全てを奪った?籠の鳥から羽を引き千切った?一体彼が貴方に何をしたというの。 分かんないよ、神様。ねえ、あんたは本当にいるの? 会わない、逢いたくない。 違った。そうではなかった。 会えない、逢ってはならない。 しかしそれすら破って彼は、迅を選んだ。迅に、もう既に決められてしまった運命に、彼はついて行くと決めたのだ。 「一人でなんて行かせない」 「連れて往け」 嬉しかった、頷いてしまいたかった。 でも、同時に哀しかった、悔しかった。 唯の商品でしかない自分を本気で好いてくれていたという事が。 意志の強い目が、大好きな瞳が虚偽を語っていなかった事が。 大切な人がこの世界から消えてしまうという事が。 あの人にこんな結末を用意させてしまった事が。 いっそ、こんな自分など消えてしまえば良いのだ。 でも出来るのならば彼のそばに、有りたい。 自分を忘れて、倖せになって欲しい。 でも本当は忘れてなんか欲しくない。 矛盾した想いは自分自身を閉じこめた。 差し出された薬湯を飲み込んで、一緒にこんな辛く痛い思いも胸の奥に流れてしまえば、きっとそれが一番良いのに、心はそれを拒むのだ。 愛してしまえば、愛されてしまえば、もう忘れることなんて出来なかった。 抱き締められたときに響いた心臓の音が、ひどく暖かで優しい温もりが何より愛しいと、気付いてしまった、知ってしまった。気付きたくなかった、知りたくなかった、自分の心に鍵を掛けて彼を拒めば良かった。だのに自分はそうしなかった。そう遠くない未来、沢山の人を悲しませることになってしまった。 それでも。 「慎吾さん…」 生きることもない、最初から終わっていたような人生に、一度だけ光をくれた。そんな彼は自分を我が儘にした。 彼の人に出逢わなければ、今この刻はきっと何もかもを諦めて、とっくの昔に諦めていたものを再度諦めて、淡々と最後を待っていたはずなのに。 いい加減枯れ果てて欲しい涙が、再び溢れだした。 或る月の無い深々とした夜の事。 どうか耀け、散る者達よ、と。 囁かんばかりに散る桜。 散華の夢は儚く淡く 〜・〜・〜・〜・ (後書きと言い訳) ちょこちょこ書いていたのが漸く完成しました。 本家様を蹂躙するなこのばかったれ!すみません!(謝って済むならry) 迅たん独白。原作迅可愛すぎニヤニヤ。 病気進行してちょっとやばいときに色々思い返して、自分が死んでしまったら慎吾さんも後追うって決意してるから、彼のために生きたい、死にたくない、と。 相変わらず尻切れトンボで全俺が泣いた。 利央、ごめん。 水無月様すみません…。 back |