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▼向日 『ニゲラレナイ』



今日も駅のホームで見掛ける彼は、携帯で楽しそうに話をしている。

(電話してる相手は誰?)

私の眉間に皺が寄った。ねぇ、いつまで気付かないふりをしているの?こんなに私は貴女を見つめているのに。あぁ、でもきっと見つめるだけじゃ気付かないわよね。そう思った私は急行が来るまで外は暑いから、各停電車の中で待っていたけれど、私より15mぐらい離れている彼に近付きたくて降りた。

夏の蒸し暑い風が私に纏わりつく。


「そうなんだ。今日も跡部が練習長引かせるからさー」
 
最近、俺は『誰か』にじっと見られている。気持ちが悪い。電車のホームで誰かが俺を見てるなんて俺の被害妄想なのだろうか?だって、こんなに人がいるんだしよ、もしかしたら違う何かを見る時に視線が俺を通過しているだけで、別に俺を見ている訳じゃない。ああ、たぶん気のせいだ。


近くで初めて見た彼は、男の子の割に声が高くて、背が低くて、まるで女のようだと思った。


彼は私とは比べようにならないほどの名門私立校に通っていて、名前は『むかひ  がくと』という。(テニスバッグに書いてあった(平仮名で)
最初は髪も赤いし、派手な人だなと思うだけだったのに。ああ、もっと近付きたい。そう思ったら彼と全く同じ電車に乗って(私の家とは反対方向のやつ)、向日君の家まで着いていってしまっていた。


俺の隣に女が立った。ちらっと見ると、この辺にある公立中学校の制服だ。公立の中学校でも電車に乗るんだと思いながら、電車が目の前に止まったので、友達との電話をきって、俺は乗り込んだ。俺が帰る時っていうのは、大体夜の七時とか六時とかだから、電車は満員。気分が滅入りそうになってきたので、ポケットからiPodを取り出し音楽を聞くのが習慣。ぼんやり聞きながら、電車を降りると、またあの視線を感じた。今まではこんなことなかったのに。俺はゴクリと唾をのみ、改札を潜った。結局、家に帰るまでその視線は着いてきて、その時、自分はストーカーにあっているんだと分った。


気付かれないように、気付かれないように。そんな日常が続いたある日、彼は急にいつもの電車に乗ってこなくなった。気付かれたのだ。では、彼の通学方法は?と疑問に思い、朝早くから向日君の家の近くで見張っていると、向日君は侑士という人の車に乗って学校へ登校していた。


そんなことがあって、部活でも一番仲がいい侑士に相談したらさ、『一緒に朝、車乗っていき』って言われたから、侑士の車に乗って学校に登校していた。のにさ…朝、またあの視線を感じたんだ。車に乗り込んだ時には、震えながら手を握り締めていた。
 
「岳人…どないしたん?顔色悪いで。」
「あっ、あいつが…っ。」
「え…っ?」
「侑士、もう俺っ、あい、つか、ら逃げれ、ねぇ、よ。」
「…大丈夫や。俺や跡部が絶対守ったる。」
「侑士…」


…やっぱり、登下校だけじゃ貴方とはいられないみたいね。でも、大丈夫。これからはずうっと一緒だから。待っててね、向日君っ。

夜はもう眠れなかった。家の中でさえ、あいつに監視されている気がして…。本当、気が狂いそうだ。
 
 
次の日、朝登校する時は、あの視線は感じなくて、やっぱり昨日のは気のせいだったのかと思って、久し振りに元気だった。侑士とはクラスが違うから、手を振って別れるとすぐにSHLが始まった。席について、頬杖をついて前を見ていた。
 
 
「はい、皆さん。今日は転校生を紹介します。」
 
 
氷帝じゃ、転校生なんて珍しくない。親の仕事の都合で海外と日本を往復してるやつが普通なぐらいだし。
 
ガラッと開いたドアから入ってきた少女には見覚えがあった。確か電車のホームで…

「名字名前です。」
「名字の席は…向日の隣だ。」

彼女がこちらに近付いてきて、…目があった。

ああああああ…
この目は知っている
この目をっ、この視線をっ

よろしくね、向日君。」






俺があの視線から解放される時なんてなくなった。










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あきゅろす。
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