▼丸井『俺にしとけよ。』
名字は仁王を見てる。
俺は名字を見ている。
なぁ、名字…お前、俺の視線に、気付いてんだろ?
(ほら、早くこっち向けよ。)
そんなに、仁王を見たって、あいつはもう違う彼女がいるんだよ。
「なぁ、名字、」
俺は名字に声をかけた。
名字は、いつも仁王しか映さない瞳で、俺を少しだけ映した。
「何?ブン太。」
(そんな、泣きそうな顔して見てるぐらいなら、仁王に喋りかければいいのに…)
いや、違う。仁王となんて喋ってほしくない。俺以外の誰とも。
早く、早く、俺だけを見ればいいのに。俺だったら仁王みたいに名字を捨てたりしない。毎日毎日仁王より大事に扱える自信もある。だから…
「俺にしとけよ。」
耳打ち。
名字の耳に、俺の声がよく聞こえるように。
「……。」
名字は再び仁王を見だした。
俺は、ずうっと名字を見ている。
眼を逸らしたのはせめてもの
(優しさだなんて言わせない。)
(そんな些細なものは、俺を煽ることしか、効果はないのだから。)
握りしめた拳が痛い。
[次へ#]
無料HPエムペ!
|