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誤解連鎖


無機質な電話の音が響いてる。

あの後、精市さんからの掛け直しの電話はありませんでした。

(たぶん、する気もないんでしょうし。)


ポッカリと


胸に空いた絶望感。


あまりに、非現実すぎて、悲しむべきなのか、なんなのか…よく分かりませんでした。


電話の掛け直しがない…


つまり、それは…


後ろめたさを肯定していると、いうことでしょう。


私から出た一言は、


「どうして…」


ただそれだけ。


こんなことになるなら、電話なんかするんじゃなかった。


私が目をつぶれば…。

それでよかったのに。



今でも鮮明に覚えている、精市さんとの出会い。


今のバイト先の前の主人のお話です。


その頃のお店の主人は、女性に対してかなり横暴な方でした。


男性の身分と女性の身分では、かなりの差があるので仕方がないかもしれませんが。


そんな頃、たまたま商談で来ていた精市さんと出会いました。

といっても、こちらが一方的に相手を知っている関係です。


そんな日常を変えたのは、あの日。


店から出てくると馬車が止まっていて、中にいる人に呼び止められました。


「君ってあの店で働いている子だよね?」


何やら聞き慣れた声。声が聞こえた方を見ると。


ピタッ


頭がぐらつく錯覚に、時が一瞬止まりました。
精市さんの質問に私は頷くのに精一杯で。


「よかった、君に少し話があるんだけど…いいかな?」


そう言うと、精市さんは私を馬車に乗るように薦めました。


初めての馬車に目移りさせていると。


「そんなに珍しい?」


と聞かれて、再び頷きました。


しばらくすると、馬車はゆっくり進み出して。


「あっ、あのお話というのは…」
「急で不躾かもしれないんだけど、」


心臓がドキドキというよりかは、バクバクと音をたてていて。




「君に、お付き合いを申込たいんだ。」
「え…」
「勿論最初は、電話とかから始めるけど…どうかな?」


ニコッと笑う精市さんにー見とれてしまったのを覚えています。

今思うと、お店で精市さんの姿を拝見した時から、私は…一目ぼれをしていたのかもしれません。


「えと、よろしくお願いします。」


そんな私に断る理由なんてありませんでした。


「名前…言ってなかったよね?俺、幸村精市っていうんだ。」
「あっ、私は…」
「君の名前は知ってるよ、緋音。」


急に名前を呼ばれて、顔が赤くなってしまいました。番号を交換して、少し談笑している最中。


「精市様、目的地に到着致しました。」


急にドアが開かれて、私がビックリしていると。


「緋音の家だよね、ここ。」


そこで初めて、この馬車がどこに向っていたのか分りました。


「あっ、送って下さってありがとうございます。」


馬車から降りて、ペコッと頭を下げると。


「緋音、明日もバイト頑張ってね。」
「ありがとうございます。」
「緋音には、細やかだけど贈物をしておいたよ。」
「えっ?」


突然意味が分らないことを言われて、私は首を傾げました。


「フフ、明日になれば分かるよ、じゃあ。」


風のように去っていった精市さんを見ながら私は、頭に疑問を浮かべたまま、家に入って行きました。


次の日、精市さんが言ったことを少し気にしながら勤め先に向うと。


「なぁ、緋音聞いてくれよぃ!今日から主人変わったみたいだぜぃ!」


耳を疑いました、最初は。
でも、精市さんの発言とブン太さんの喜び具合から、 これは本当だと思いました。


ビックリしている私をよそにブン太さんは、話を続けました。


「ってことは、新しい主人が来るんだろぃ?どんな奴だろうなっ。」
「新しい主人…、」


(それは、やはり精市さんが選んだ人が来るんでしょうか。)


その後、働く時間を迎えても主人がくることはなく。
未だに見たことがありませんが。一体、どんな方なんでしょう。

「…夕食の準備をしないと。」

早く寝て、精市さんのことを考えないようにするのに今日は精一杯だった。







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