†三日月様より相互記念† 『svegliare』[RE27] ある日の沢田綱吉。 ―――朝 「Buongiorno、ツナ」 静かな朝、起床を促す声。 そして―――物騒な音。 プシッ! 寝ていた者の顔すれすれに突き刺さる弾丸。 高級な羽根枕は無粋な穴を穿たれ、息絶えた。 「ちょっ、リボーン!何するんだよっ」 「目覚ましだ」 「そんな危険な目覚まし、聞いた事もない!」 慌てて飛び起きた綱吉の怒鳴り声に、返って来たのは簡単な答え。 「聞いた事はなくとも、現物は此処にあるだろうが」 「見たくもなかったけどね」 飛び散った羽根が宙を舞い、辺りを幻想的な雰囲気に仕立て上げていた。 たとえ部屋の持ち主がそれを望んでいなかったとしてもだ。 「白い羽根の中に浮かぶお姫さまの美しい姿――萌えシチュエーションだな」 「・・・ツッコミどころ満載過ぎて、何も言えないよ」 身体に降り積もった羽根を払い落しながら、綱吉は疲れたように言った。 「とりあえず『目覚まし』の役割は果たしたぞ」 「二度と使って欲しくないんだけど」 「三度はいいんだな?」 「三度も四度もダメに決まってるだろう!!」 声を荒げ、堪えた様子もないリボーンにビシリと指を突き付けた。 「わががまだな、ツナ。そんな子に育てた覚えはないぞ?」 だが返って来たのは、まるでこちらが悪いかのような台詞。 嫌味ったらしくもヤレヤレと肩まで竦めて。 クルリと一回銃を回し、徐に懐へと仕舞った。 腰掛けるのは豪奢なベッドの端・・・・ではなく、堂々と真ん中だ。 それも靴を履いたままという俺様振り。 流石の綱吉もツッコミに疲れたのか、チラリと視線を流すだけに止めた。 「おい、ツナ」 「なんだよ」 「キスしろ」 「―――はい、キッス」 物凄く投げ遣りなキスを、リボーンの頬にひとつ。 「さて、着替えるか」 もそもそとベッドの端から下り、ぺたぺたと(実際には足音などしないのだが) 隣室との間にあるドアに向かった。 「隼人〜」 そしてドアの向こうにいるだろう獄寺に、声を掛ける。 「はい十代目」 打てば響くとはこの事だ、そう言いきれる位の速さで応えがあった。 「着替えるから―――」 「邪魔するな」 ツナの言葉に、被せるようなリボーンの声。 「ちょっ!何・・・・っ」 「オレが直々に着替えさせる。だから手伝いはいらない」 「分かりました」 万事心得ている右腕は、それ以上何を問う事もなく静かに引き下がった。 残されたのは。口を押さえられてもがもが言うばかりの綱吉と。 すでに脱がす気満々のリボーンという、いつもの二人組だけだった。 「ぷはっ」 「さあ、脱げ」 大きな手のひらから解放されて、息を継いだばかりの綱吉に掛かるのはリボーンの簡潔な命令。 従わないとどうなるか分からないぞ? そんな雰囲気を漂わせつつ、とりあえずは腕を組んで様子を見ている。 顔にはニヤニヤとした笑いを刻んで、下手をすれば口笛でも吹きかねない程の上機嫌。 逆らうのは得策ではないと――本能では分かっているのだが。 反射的にツッコミを入れてしまうのはもう『性(さが)』としか言いようがない。 「お前に命令される筋合いはない、ってか勝手に決めるなよ!!」 ニィ。 その言葉を聞いたリボーンの口元が、妖しく吊り上がった。 見る者を震え上がらせるような凶悪な笑みだ。 少しばかり付き合いは長いとはいえ、慣れる事などないその笑みに文字通り震え上がった綱吉に。 じり。 近付くリボーン。 じり。 後ずさる綱吉。 それを何度か繰り返した後―― 「うわ」 ぽすんと間抜けな音と共に、ベッドに倒れ込んだ。 目の前の男に気を取られ過ぎて、背後のベッドには気が回らなかったのだ。 それでも出来る限りの早さで起き上がった綱吉だったが、圧し掛かるリボーンの動きの方がコンマ一秒早かった。 「残念だったな」 「どけよ!」 「優しくもこのオレが、服を脱ぐ手伝いをしてやろうってんだ。感謝しろ」 「どこまで俺様!?」 「じたばたするな、大人しくしてれば痛くしねえ」 「服を脱ぐのに痛いとか、あり得ないから!!」 「そして煩い口は塞ぐのが得策、ってな」 「〜〜〜〜!!!!」 文句は全て飲み込まれ、むーむーいう音にしかならない。 その隙にスルスルと、身ぐるみを剥がされてしまった。それも下着まで、全て。 そこでやっと唇が離され、俺様家庭教師のリボーンが宣うのは――― 「良い眺めだぞ?ツナ」 「ふざけるな!!」 勿論、綱吉が叫ばない筈などなく。 何も身に纏っていないという状態ながら、ドンとしての威厳は保ったままビシリと指を突き付けた。 「フン。いつだってオレは大真面目だぞ?真面目が服を着て歩いていると言われるくらいだ」 「言われてねえよ!」 「それにな―――」 「な、なんだよ」 「お前の為に用意した服を、無駄にはしたくないからな」 ニィ。 再び、悪魔のような笑いを浮かべたリボーンに。 綱吉は蛇に睨まれた蛙のように、身を竦ませた。 「まずは、下着からだな」 何処に隠し持っていたのか、どう見ても女物としか思えない代物が手に在った。 清楚な作りではあったが、綱吉には縁のないモノ。 本来なら一生身に着けずに終わる筈の、上下のパーツに分かれた布地。 綱吉の名誉の為に、あえて固有名詞は伏せておこう。 「ちょ!リボーンっ」 「下着から拘るのが、オレの主義だからな」 「そんな拘りいらないから!」 「痛くしねえ、って言ってんだろ?」 「痛い痛くないの問題じゃない、オレは男だ!」 「偶然だな、オレも男だぜ?」 さすが超一流のヒットマン、色々とスキルを持っている。 愛人が星の数ほどいるというのも、強ちガセではないらしい。 シレッと言い放ち、スルスルと手際よく綱吉に着せた。 その動作は淀みなく、綱吉に抵抗する時間さえ与えない。 「これで第一段階は、終了だ」 今までのやり取りで疲れ果ててしまったらしい綱吉は、ツッコミをする元気もないのか。 「・・・・・・・」 無言のまま、ベッドに横たわっている。 そんな綱吉を見たリボーンは、 「抵抗がないと、萌えねえな」 わざと怒らせるような台詞を口にして、一旦手を止めた。 「萌えなくていいわ!!」 途端に元気を取り戻した綱吉による、ツッコミが炸裂し。 それと同時に、止めていた作業を再開するリボーンがいて。 両者の間に、再び火花が散るのだった。 「中途半端はよくねえからな、キッチリと仕上げてやるぞ」 「話を聞け!バカリボーンっ」 「後でたっぷり聞いてやるから、今はマグロになってろ」 「マグロって、なんだ――――!!」 綱吉の叫びは、空しく室内に響き。 肝心のリボーンには、なんの威力も発揮せずに終わったのだった。 ****** 「・・・・なんでこんな事に―――」 「いつも言ってるだろ?オレが楽しいから、だとな」 「ははは、そうでしたね。リボーン先生」 ガクリと肩を落とし、項垂れるふわふわの茶色い髪。 声も色もドンボンゴレ――綱吉なのだが。 「デートなんだから、もっと嬉しそうにしろ」 「この格好じゃなかったらな!」 「似合ってるぞ?ツナ」 「そう言われて嬉しがるヤツがいるかよ」 「此処にいるだろうが」 堂々とリボーンが指差す先には、綱吉。 「ふざけんな」 琥珀の瞳が、強い力でリボーンを射抜く。 どんなに見掛けが変わろうと、そこだけは変わらない。 いかなリボーンのテクニックを持ってしても、変える事など出来ない輝き。 「それでこその“沢田綱吉”だ」 ニヤリと。胸の内で笑う、家庭教師の小さな呟きは―― 幸いな事に教え子の耳には、届かなかった。 fine。 ――おまけ。 「どうして男のままじゃいけないんだよ」 「女の格好をしてた方が、色々と都合がいいんだぞ」 「都合がいい?」 「お前が、ドルチェを山ほど食う時とか」 「う、それは――」 「ホテルにしけ込む時とか、な」 「確かに・・・って、おい!!」 「クッ!納得したところで、旨いモンを食べに行くか」 「誤魔化すな、リボーン!!」 「お楽しみはこれから、ってな」 「こンの、オレ様家庭教師っ」 「そんなオレが好きなんだろう?ツナ」 「ぐ」 「オレは“愛してる”ぞ」 「//////ばか」 svegliare=目覚めさせる 20091126。 [次へ#] [戻る] |