迷える子羊たち
 

 バスタブの湯につかりながら僕は、浴室の壁を伝い落ちる水滴を眺めていた。

そろそろ、のぼせそうだ。

なのに、脱力感に身体を支配され何をする気力も起きない。



 『ありがとう お兄ちゃん』



 ルルーシュの言葉が頭の中にへばりついて、リフレインしては僕の心を絞めつける。

あんなに『お兄ちゃん』って、ルルーシュに呼ばれたかったのに。
何故か苦しくて、寂しくて堪らなくて。

線を引かれ、繋がりをプツンと断たれたような――
そんな喪失感が僕を追いつめる。


「…ルルーシュ…」


カレンの好意に、どう応えるのだろうか。

大丈夫だ。
今は、付き合う気はないって言ってたじゃないか。


 …――今は?

 じゃあ、この先はどうなの!?

 何が大丈夫だ、
 ちっとも大丈夫じゃない!

 ゆっくり考える必要なんか
 あるもんか!!

 カレンの告白なんか
 きっぱり断ってよ

 お願いだから…!


僕は激情に弾かれて、バスタブから立ち上がり浴室を出た。

身体の滴をタオルで手早く拭き取り、パジャマを着る。

風呂場を飛び出し、リビングにいる筈のルルーシュの元に急いだ。


「ルルー、……シュ」


 リビングは、シンと静まりかえり人の気配は無い。

午後10時15分。

いつもなら、ソファに座りクッションを抱いて、テレビのニュースを見ている頃。

僕が風呂から上がるのを、どんなに眠くても待っててくれるのに。

なのに――。

今日は風呂上がりに一緒に苺を食べようって約束したじゃないか。

おやすみなさいも言ってないのに。


「…ルルーシュ、どうして…」


ルルーシュが

僕から離れていってしまうのではないかという予感と不安はまた、色を濃くした。







熟睡できないまま朝を迎え、僕は自室を出て居間に向かった。

エプロン姿のルルーシュが視界に飛込んできて、胸がいっぱいになってしまい、言葉につまる。


「…おはよう、スザク」

「あ…、おはよう」


 変な間があいてしまった。


目の前に、味噌汁とだし巻き卵、おつけものと白いご飯が並べられる。

いつもと同じ、朝の風景が広がっていて。

僕は、ホッとして席に落ち着き、『いただきます』と手を合わせ味噌汁をすすった。


「ほら弁当ここに置いとくから、忘れるなよ」

「うん、ありがとうルルー、」


テーブルの上に並ぶ、3つの弁当――。


「そ、そのお弁当」

「…オカズが余ったから。…ついでだ」


 カレンの…分?!


嫌悪感があからさまに僕の表情を漂う。


「……あっそう」

「何だよ、その言い方」

「別に」

「‥‥‥」


話を切ると、ルルーシュも何も言わなくなった。
御互い心の水面は荒く波立っている事は間違いない。

でも、苛立ちを我慢できない。


 何でだよ!?

 カレンと付き合う気なんか
 無いって言ったじゃないか…!


学校へ向かう途中も、気まずくて、喋る話題もなく学校に到着してしまった。

こんなんじゃダメだ。

そう思い何か話そうとしたけど、結局別れ際も何も言えず、ルルーシュは僕から離れて、教室に入ってしまった。


 次の休憩時間こそは…!


一限目終了のチャイムがなり、授業が終わると同時に僕は教室を飛び出した。

勿論行き先はルルーシュの教室。

辿りついて、扉をひらき中に入るとルルーシュと目があう。


「…スザク」

「ルルーシュ、僕――」
『ブルルル…』


大事な話を始めようって時に、机の上でルルーシュの携帯のバイブ機能がメールの着信を知らせた。


「‥‥‥」


ルルーシュは携帯を見てため息をつき返信すると、携帯をまた机の上に置く。

間の悪いメールだな。
頭にきたが、突っ込むとルルーシュと本格的にケンカになりそうだ。

イライラしながらルルーシュの携帯を横目で見ると。


 あ…!!


携帯の待ち受け画面に、僕の地に落ちたはテンションは一気に舞い上がった。

写メで撮られた、僕の寝顔。
何時撮られたんだろう。

苛ついてたことを忘れるくらい嬉しくて、顔がニヤけた。


「ルルーシュ――」
『ブルルル…』

「‥‥‥‥」


おい、一度ならず二度までも。

再度沸点を越え
堪忍袋の尾きれた僕は、ルルーシュより先に携帯を手にとった。


「スザク…!」


「‥‥‥‥」


画面に、『カレン』と数回点滅して『新着メール一件』と表示が変わる。

メラメラと沸き上がる怒り。
僕の中で爆発した。


「…どうしてルルーシュの携帯にカレンからメールが届くわけ?」

「手紙にメールアドレスがあったから。顔見て、付き合う気ないなんて言い辛いし…だからメールで返事したんだ」

「アイツにアドレスなんか教えてどうするんだよ!メールがしつこく来るに決まってるじゃないか!無視すれば良かったんだ…!」


教室だという事を忘れてしまう程に僕は怒りに――…
いや、嫉妬に我を忘れてルルーシュを責めてしまって。

ルルーシュの悲しそうな顔に、僕は自分を取り戻し、固まった。


「お前がアイツのラブレターを預かって渡してきたからじゃないか…!お前がよこすから、ちゃんと応えなきゃいけないって思ったんだろ…!!お前が勧めたんだろうが…!!」


「ち、違う…!勧めてなんか――」
『キーンコーンカーンコーン…』


「…!」


弁解をしようとした時、無慈悲にもチャイムが、休憩時間の終わりを告げる。

タイムオーバー。
教室に僕も戻らなきゃ。
しかも、次の休憩は科学室に移動しなくちゃいけない。


「次は教室移動しなきゃいけないから3限目が終わったら来るから…!」

「もういいよ…。またケンカするだけだろ。もう教室に来ないでいい」

「来るから…!!」


次の来訪を宣言して、僕はルルーシュの教室を出た。


本当は手紙なんか渡したくなかったんだ。

押し付けられて、どうしようもなくて。
僕はハメられたんだ。
巧妙なカレンの策略に。

ルルーシュに、渡したいものがあって僕に預けている事をチラつかせたのも、
自分で渡せる手紙を僕に託したのも全部、ルルーシュと僕を引き離すための策だった。

そうとは知らず、僕は。
捨てるに捨てられず、渡すしかないと覚悟を決めてアイツの手紙を泣く泣く渡したんだ。

だって手紙を捨てた事がカレンから何らかの耳でルルーシュに伝わり、

託された手紙を捨てるなんて最低だって。
行儀が悪いって。

ルルーシュにそう非難されるのが怖かった。

だけど、人格疑われる事になってもカレンのラブレターは捨てるべきだった。

カレンを推奨してるなんて思われるくらいなら…!




僕が君に推奨するのは僕だけ!


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