兄と妹と、天敵×2?
 

――ルルーシュは、人見知りが激しい。

特に男性に対する態度は厳しく、話し掛けられても相槌さえうたない見事なシカトっぷりで、接し方には愛想も味噌もない。

『人見知り激しい困った子なんだ、ゴメンね』
なんて苦笑いを浮かべながら腹の中では、彼女の微笑みは僕だけのものだと余裕かまして勝ち誇っていた。

優しさも思いやりも、愛情もずっとずっと僕だけのものだ、と。

けれど、今日

それはただの僕が描いた確証も根拠もない絵空事だと、思い知って。


あのルルーシュが――

…僕の弁当をつつくカレンに、すすんで自分の弁当を差し出した。


――初めてだ。
例え仕方なくでも、同情でも。

今までたくさんの男が近づいてきたけど、ことごとく拒絶して遠ざけて心を開かなかったルルーシュが、

僕以外の男性に
べ、べ、弁当を…っ

――不安と嫉妬が頭の中をグルグル駆け巡る。


ねぇルルーシュ
君は僕の腕から
飛びたってしまうの?

 カレンの許へと――…

僕の勘違いだろ?
 心配は杞憂に終わるよね?


僕の胸は乱れ、壊れそうなくらいの喪失感に揺すぶられた。


巣立ちの刻を

 僕が本当の兄なら、
 祝福してあげられたのかな

 だけど 僕は――、


「スザク、明日も昼休みにお邪魔していい?」

「……」

「ねぇってば」

「…いいわけないだろ。昼休みはルルーシュに、ひとりで屋上に来いって言われてる。カレンに来られちゃ正直、迷惑なんだ」

「…はぁ、迷惑?!」


嫌のある僕の返事に、カレンも表情を険しくした。

教室の前、廊下でふたり立ち止まる。


「迷惑なのはソッチだろ!常にルルちゃんの前に立ちはだかりやがって、鬱陶しい!スザクはルルちゃんの兄貴なんだよね?それ以上でも以下でもないだろ」

「兄貴以上でも以下でもない、だ?…何が言いたいんだ、お前」

「スザクにルルちゃんを独占し続ける権利なんて無いのに。彼氏じゃなく兄なんだよ。なのに君は全然分かってないみたいだから教えてやってるんだ」

「……わかっているさ!」


そうさ、分かってる。
自分の『兄』という立場をくらい。
だから、こうして苦しんでるんじゃないか。


「…ただ、僕がお前をルルーシュにふさわしいとは思ってないだけだ」

「なっ、何だと…!?俺はちゃんと…命を賭けられるくらいルルちゃんが好きだ!お前にどうこう言われたくないね!」


お前なんかに、何がわかる?

僕とカレンの口論は加熱しエスカレートしてゆく。

二時間前にはインテリに見えたロン毛も、今じゃ柄悪く見えてきた。


「フン、どうだか!大体お前のそのチャラチャラ長い髪は何だ、鬱陶しい…!身だしなみの乱れは心の乱れだ…!」

「……スザク、お前は兄貴じゃねぇ。寧ろ
くそオヤジだ…!!お前の許しなんかもう要らない!俺の好きにさせて貰うから!」

「お前の好きになんかさせない!」


御互いの胸ぐらを掴み、低次元な争いにもつれこみそうになった時、階段を上がり角を曲がって教師がやってきた。


「おい、お前ら何をしている!昼休みはとっくに終わっているぞ!授業だ授業!」


睨みあいながらも、僕とカレンは教師に襟首を摘まれて教室に引っ張りこまれ、一時休戦とあいなった。


僕的には授業なんてどうでもいい。
イライラしてて、ズバリそれ所ではないよ。

今、教室の窓からカレンのラブレターを捨ててやりたい。
飛行機にして運動場へ飛ばしてやる、とか

…――したかったけど

もう忌まわしき手紙を捨てる、という選択肢は無くなった。

昼休みに屋上で、カレンのヤツがルルーシュに僕にラブレター託してる事バラしやがったから。

予告するくらいなら自分で渡せばいいじゃないか。
何で僕が渡さなきゃいけないんだ。
おかしい。

自分で渡せそうじゃないか。

っていうか――、

手紙にしたためなくても、口頭で告白できそうなもんだ。

物静かなヤツかと思ってたのに、そうでもなかったし。


少なくとも手紙受け取った時までは奥手なんだと
ルルーシュがなびく事なんて絶対ないと思ってたから。

とんだ猫かぶりだ。
猛烈アタッカーだ。

わざわざラブレターを書いて、僕に託した理由

嫌がらせなのか、
それとも


何かあるんだろうか――。








授業と終礼を終えた僕は、約束通り、ルルーシュの教室に向かった。

既に彼女のクラスも終礼を終えていて、開いたドアから教室を覗くとすぐ気付いて、帰宅の用意を済まし鞄を持ったルルーシュと、その友達の女の子が、僕の所に歩み寄ってくる。


「…友達のシャーリー。駅まで一緒に帰りたいんだって」

「あ、うん。いいよ、僕は構わない」

「…後ろのは、お前が連れて来たのか?」

「後ろの…?」


ルルーシュの言葉に反応して振り向くと、


「…俺も駅まで」


 出たーーっ!!!!!!


「カ、カレン…!」


いつの間に!
沸いて出やがった!!
さっきまではいなかったのに…!!


「さ、帰ろうルルちゃん」

「引っ張るな、鬱陶しい…!」


カレンはルルーシュの手を引き廊下を下駄箱に向かって歩いて行く。

頭にきた僕は、ルルーシュの手首を握るカレンの手をめがけ、チョップを振り下ろした。


「イテッ…何するんだよスザク!」

「ルルーシュに気安く触れるなよ」

「スザク――、「セクハラだぞー!」


カレンとルルーシュの間に割って入った僕の前に、シャーリーが割って入ってくる。
シャーリーはルルーシュをかばう様にカレンを睨んだ。
カレンは弱った風に頭を掻く。


「そんなつもりじゃ…ゴメン」
「だって。謝ってるし許してあげたら?ルルーシュ」

「ルルちゃんと仲良くしたくて、つい」
「……」

「ホラホラ!膨れっ面してないで!仲良くしてあげたら?」

「お、おい、シャーリー…!」


シャーリーはカレンの横へとルルーシュの背中を押した。


うおい、シャーリィィイィ!?


君はあれか?!
カレンと結託してるのか!?


靴を履き替え、駅へ向かう道をゆく僕たち。

悔しいかな、僕は並んで歩くルルーシュとカレンの後をシャーリーと並んで歩いていた。


何でこうなるの…っ






駅までの道のりの、10分の体感時間は1時間


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