恋文という名のダイナマイト
 

「…ムフフッ」


 僕は緩む口許を堪えきれず、授業中だというのに宙を見て不気味にニヤけていた。

思い出し笑いというか、思い出しっぱなし笑い?

だって!
ルルーシュがたった10分間の休み時間に1階から3階にあるこの教室まで、遥々僕に会うためだけに来てくれたんだ。

しかもだよ、休憩の度に会いに来てもいいか?なんて可愛い事聞いてくるからキュンときちゃって、本気でクラスのみんなが見てる前で抱きしめそうになったじゃないか。

いや、勿論踏み止まったけど。

ルルーシュの申し出は天に昇るくらい本っ当に嬉しかった。

けど休みの度に彼女にこの教室に来られては正直すごく困る。

なぜって、授業が終わる休憩毎10分間、クラスの猛獣どもの前にルルーシュを晒すことになってしまうじゃないか。

冗談じゃない。
そんな危険きわまりない事態は何としても回避しなくちゃいけない。

というわけで、僕がルルーシュのクラスに休憩時間の度に会いに行くと申し出た。
3階までの階段の登り降りをルルーシュに強いらなくていいし。

しかも、ルルーシュのクラスにもいる獣どもに、兄である僕の存在を知らしめる好機だ。
良いこと尽し!

ああ、休み時間が待ちどおしい。

はやる心をもて余しほと走る笑顔を隠せず、

結果教師にチョークを投げられても、授業終了まで僕は上の空のままだった――。




『キーンコーンカーンコーン…』


 ――終わった!
 やっとルルーシュに
 逢いに行ける!!


授業終了を知らせるチャイムと同時に、机に教科書とノートを押しこんで、僕は椅子から立ち上がった。

一分も無駄に出来ない。

教卓の前を通り、ドアを開けて教室から廊下へ出た時だった。


「枢木くん」

「!」


 誰だ!!

 この忙しい時に
 僕を呼び止めるのはーー!?


苛立ちながらも無視するわけにはいかず、振り返ると――


「…紅 月…?」


 紅月カレン――だったっけ?

おとなしく、目立たないクラスメイトのひとり。
今まで彼とは特に、かかわりを持っていないのだが。
それが何故、


「あ、カレンでいいよ」

「あ、じゃあ…僕もスザクで…」


 何故 今なんだ!?

 貴重な休み時間を〜
 呑気に自己紹介なんて
 し合ってる場合じゃないのに…!

 一体、何の用だよ!?


「妹さんの所へ行くんだよね?」
「!?」


…何だ、コイツ。

 さっきの休憩時間の時、
 廊下での
 僕とルルーシュの話を
 聞いていたのか?


でなければ、僕がルルーシュの教室へ遊びに行くという予定や事実を知り得ない。

僕はいぶかし気にカレンを見た。


「…実は渡して欲しいものがあるんだ。――これ…」


あからさまに怪訝な顔をする僕を完全スルーして、カレンは一通の封筒をよこした。
繊細にみえて、中々太い神経の持ち主だ。

に、しても

 …すごく、
 嫌な予感がするんですけど。


「これ…」

「ラブレター」


 やっぱり!!


「……カレンが、僕に?」
「そんなわけ、無いじゃない」


 …だよね。

 って、事は――


「妹さんに渡してくれないかな?」

「ル、ルルーシュに?!僕が君の書いたラブレターを?冗談だろ、自分で渡せよ」

「…渡せるなら、渡してるよ。無理だから君に頼んでるんじゃないか」


カレンはムスッとして、言った。


「・・・・・」


 これが
 人に頼み事をする態度だろうか?


「…渡したくないなら、捨ててくれていいよ」


 逆ギレですか。

舌打ちでもしそうな勢いで言いたいだけ言い捨て、カレンは背中を向けて教室に入って行った。


 何、コレ――
 僕に対する拷問?

 捨てていいって言ったって
 捨てたら鬼だろ
 捨てられるわけないだろ

 だけど渡せるわけも無い

 僕は…
 ルルーシュの兄であって
 …兄ではない

 ルルーシュの兄以上になりたい

彼はその事に気づいてるんだろうか、
気づいてないのだろうか



とにかく、一気にテンションが下がってしまった――。


暫く廊下に立ち尽くしていたが、僕は我にかえり手紙を胸ポケットに入れて、階段を二段飛ばしで下ってルルーシュの教室に急いだ。


【1−A 】


ルルーシュのクラスに十数秒到着し、教室を確認してドアを開けた。


「スザク!」


すぐにルルーシュは僕に気づいて、椅子から立ち上がり手を振っている。

シンと静まる教室の中を僕は絡みつくような視線を身に感じながら、ルルーシュの席に向かって歩いていった。
予定通り、僕は注目の的だ。
僕がルルーシュの何なのか?ってね。


「…遅くなってゴメンね、ルルーシュ。待った?」


わざと仲の良さを周囲に見せつけるため、僕は思わせ振りにルルーシュの頬にかかった髪を撫でてやった。

ルルーシュは照れくさそうに少し顔を下に向け、上目使いに僕を見る。


「ちょっとだけ、な。もしかして忘れてたのか」


と、少しスネて僕を睨んだ。
本当にこの子は自分の魅力を分かってないよ。


「僕がルルーシュの事忘れるわけないだろ?」

「そ、そうか…」


教室の端で僕たちは柔らかい、二人だけの空間を創りあげる。

この際、兄妹だという事は伏せておけばいいよ。

やっと学校でも

入学してきてくれたルルーシュとイチャイチャできるようになったのに。

しかも休憩時間のたびに、来てもいいって

 凄く嬉しいのに――…
あの、カレンに託されたラブレターのせいで喜び四割減だ。

胸にドンと石を詰められたみたいに、重苦しい。


渡さなきゃいけないのかな?
やっぱり捨てるわけにはいかないよね?

でも嫌だ。
本当に嫌だ…


「…何かあったのか、スザク?」
「いや、…何でもないよルルーシュ」


結局次の休憩時間にも、ルルーシュにカレンからのラブレターは渡せず、

そのまま昼休みに突入した。


約束の地、校舎の屋上。
僕は蒼い空を流れる白い雲をジッと眺めていた。

澄みきった空をみてると、何故か泣きそうになり、


「スザク、お待たせ」

「ルルーシュ――、」

「こんにちは。俺もお昼、一緒に食べてもいいかな?」


ルルーシュの背後から現れたのは、


――紅月カレンだった。




 出たァーー!!


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