お兄ちゃんが、いちばん!
 

「じゃあ、昼休みに弁当持って屋上に集合ね」


スザクはヒラヒラと手を振って、階段をのぼっていった。

3年の教室は校舎の3階にある。
1年は1階。
同じ校舎内なのに、何故だろう。

遠ざかっていくスザクの背中を無償に追いたくなる衝動にかられる。


「スザク…」


階段の下からスザクが見えなくなるまで送り、ひとりになった私は廊下を足早に歩き仕方なく教室の中に入った。

にわかに教室内がざわめき、まとわりつく視線は鬱陶しいという他ない。

無視して席につき、鞄の中の教科書を机の中に入れた。

傍に誰かが駆け寄ってくる気配に顔を上げると、笑顔のシャーリーが立っている。

なんだ、シャーリーか…

一瞬で固まった肩の力がフッと解放される。


「おはようルル!…あれ?機嫌悪い?」

「…昨日に引き続き、空気悪い…」

「仕方ないよ、ルル可愛いから、目立っちゃうんだ」

「…そんなんじゃない」



この無駄にデカイ胸のせいなんだって、分かってる。

…以前はこんなんじゃなかった。
いつからか、こんなに無駄に膨れてしまったんだ。
縮められるなら縮めたい。
シャーリーくらいが丁度いい。
胸は大き過ぎても、小さ過ぎても具合が悪いんだ。

走ると揺れて痛いし、足元は見えないし、何かと邪魔だし。
百害あって一利無し。


何より、あの男子どもの私を小馬鹿にした顔――…殺意さえ覚える。

教養の無さそうな馬鹿達がガン首揃え、コソコソと耳障りな小声で牛乳(うしぢち/ぎゅうにゅうでは無い)
とか爆乳とか囁かれ、笑われ、辱められ、どれだけの苦汁を舐めさせられたか。

肉体的な欠点を誹謗中傷するのが大好きな年頃なのだろうが、許される事ではない。

が、低脳な男児と言い争うのも馬鹿馬鹿しい。


ああもう、注射器で吸い取って容量を減らしたりする事は不可能なのだろうか?


スザクに相談してみようか

でも、アイツも男だな。
うん、男なんだけど――

――何かスザクは周囲の男共とは違う。
兄妹だからかな?

今朝なんか、私の胸を触った事にも気づいてなかったもん。

それとも気づいてて、取るに足らない出来事だったんだろうか。

アイツときたら

そ知らぬ顔でトイレに行って、スッキリした顔で出て来やがったからな。
(絶対、大の方だ)


…妹の胸になんか、興味無いって事か。
少々失礼だろ。


『キーンコーンカーンコーン…』


予鈴が、一限目の開始を告げた。

が、授業の内容も先生の声も何だか上の空でスザクとお揃いで買ったシャープペンをマジマジと眺めてしまう。


「スザク…」


そういえば、あの手の怪我は本当に壁でぶつけただけなんだろうか。

もしかしたら、私が原因で誰かとケンカしたのかもしれない。

小学生の頃、片言の日本語しか話せない私を苛める男子とケンカした事があった。

私が原因なんだろうと、スザクに何度問うてみても『違う』と言い張って。

先生に叱られ、父さんに怒鳴られ、それでも私を気遣ってスザクは何も言わなかったんだ。

スザク…


「まだ9時半か…」


腕時計が示す時刻にため息が出た。

――昼休みまでは、まだ遠い。







『キーンコーンカーンコーン…』

一限目の終鈴が鳴り、教師が教室を出ると同時に私は席から立ち上がり三階に向かって階段を昇った。

――3‐B。


間違いない、スザクのクラスだ。

緊張でドキドキする。
トイレに行ってスザクがいなかったらどうしよう?思う所は色々あったが、


『ガラガラ』


思いきって、教室の扉を開けた。


シンと静まりかえる教室。
皆がこちらを見ている。


「・・・・」


顔が紅潮してゆくのが自分でも分かった。

必死に視線を泳がせ兄の姿を探し始めた時、聞き覚えのある声が響く。


「ルルーシュ!」


スザクは少し驚いた顔で、コチラに走り寄って来た。

そりゃ、再会は昼休みの約束だったからな。

けど、



…待てなかったんだから仕方ない。


「どうしたの?何かあった?」
「…用がないと、やっぱり来ちゃマズイか?」



文句という訳じゃなくて、寧ろスザクの邪魔には、なりたくなくて聞いたのだが案の定スザクは慌てて返してくる。


「いやいや、会いに来てくれたのは嬉しいんだけど!…何かあったんじゃないかって心配になった」


スザクの優しい言葉に、無意識に頬が緩んだ。

「…別に何もないんだ。けど…休憩の度スザクの教室に遊びに来ていいか?」


友達がいないわけじゃないのに、教室の空気に馴染めず居辛いのは事実で。
だけどスザクに心配をかけたくは無いから伏せよう。


それでも私の申し出に、いい返事をくれる
――と思いきや、スザクは顎に手を当てあからさまに難色を示した。


「…別にいいけど、三階まで何度も往復なんてルルーシュ大変じゃない?」

「・・・・・」


遠回しに断られてるのだろうか。

胸がチクリと痛んで、
寂しくなり思わずうつ向いてしまった私の頭を、スザクは柔らかく撫でる。


「僕が休憩の度、ルルーシュの教室に遊びに行ってもいいかな?」

「スザク…!」



――答えはYESに決まっている!




世界中でお兄ちゃんが、いちばん大好き!!
 

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あきゅろす。
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