嵐がやってきたA
 

昨日の朝はあんなに遠かったスザクが、今朝はこんなに近く感じる。
カーテンを開けても外はどんより暗くて大雨に強風が吹き荒んでるというのに、気分は晴天だ。


「…朝ご飯にしようか」

「うん」


スザクは頷いて、少し考えこむような素振りをみせた後、ニッコリ笑った。


「今日は僕もルルーシュと一緒にロールパン食べようかな」

「珍しいな」

「うん。何か今日は朝もルルーシュと一緒のものが食べたいな、なんて」

「…わかった」


スザクはいつも、朝食も和食で味噌汁とご飯に用意したおかずを食べる。
私は朝からガッツリ食べる気分じゃないので、ロールパンと紅茶で済ませていた。

二度手間だからとスザクも私に合わせ『パンでいい』と言ってくれるが、朝食は1日の始めの大事な食事だ。
好物をすきなだけ食べさせてあげたい。

でもたまには気分で変えてみるのも悪くない。


「卵はオムレツがいいな」

「わかった」


今日は私も簡単なものじゃなく、ちゃんとした朝食を食べよう。
大好きな人と同じ時間、同じ空間で同じものを食べるって、これ以上はないというくらいに幸せだ。

フライパンにバターを溶かし、割りほぐした卵を入れて手早く掻き混ぜ形成する。


「バターのいい香り」

「スザク」


突然に気配を感じ、ビクッと構えてしまった私を見てスザクは笑う。


「ごめん、驚かせて。何か手伝いたくて」

「ありがとう。じゃあ、ボウルの水につけてある野菜をザルにあげて水きって皿に盛り付けて」

「うん」


出来たオムレツをスザクが盛ってくれた野菜のとなりに置き、ボイルしたソーセージを乗せた。


「そ、ソーセージ…」

「ん?何だ、スザクはソーセージ嫌いだったっけ?」

「いや、そんなことない好きだよっ!うんうん」

「…?」


何でスザクのヤツこんなに、うろたえてるんだろう。

まぁいいか。

皿の上にパンを乗せて、テーブルに向かうと、スザクがカップから丁度ティーパックを取り出し紅茶を入れ終えた所だ。
椅子に座って、二人で同時に手を合わせる。


「「いただきます」」


オムレツの焼き加減も塩加減もちょうどいい。
舌の上でトロリと崩れ溶ける。


「ルルーシュってば、本当に料理上手いんだから。一生死ぬまでルルーシュの料理食べて舌鼓打ってられたら幸せなのになぁ…」


――そうだ。

コイツはいきなり、こうやって何の前振りもなく、照れ臭くて恥ずかしい台詞をほざいて、私の心を鷲掴みにするのだ。

自覚はあるのか。
まるで、プロポーズだぞ。
妹にプロポーズする兄なんて居ていいのか。


「…お前が望んでくれるだけ、傍にいてずっと作ってやるよ」

「…本当に?」

「ああ」

「ありがとう…ルルーシュ」


また何も無かったように、パンを千切り口に運んで紅茶で喉を潤す。

箸でソーセージを摘み口に運ぶと、ふとネットリ絡みつくような視線を感じて、スザクを見ると目があった。


「なんだよ?」

「な、な、何でもない!」


変なヤツだな、さっきから。
顔を真っ赤にして、えらく挙動不審だ。
一体何々だスザクのヤツ。


朝食を済ませ、スザクは台所に食器を運んでくれた。
そのまま、いいと言ってるのに洗うのも手伝ってくれて。


「ほら、ちゃんと上げないから袖が濡れてるじゃないか」

「ゴメン」


エプロンで手を拭いて、スザクの服の袖を肘あたりまで折り曲げてやると、すまなそうに頭を垂れる。


「慣れてないとダメだね。これからはもうちょっと家事とかも手伝うよ」

「気にしないでいい。家事は嫌いじゃないから」

「でもさ、こんな風にしてると、なんか新婚夫婦みたいで楽しいじゃない?」

「ばっ、馬鹿っ、兄妹だし…!」


一瞬にして自分の頬が朱に染まったのが分かった。
どんなに否定したところで説得力がない。
こっちの性格を把握してるスザクは満面の笑みを浮かべていた。
畜生、


「はいはーい兄妹です。世界一仲良しな兄妹です」

「馬鹿…!」

「ねぇ、そういえば苺まだあったよね」

「ん?ああ」

「じゃあ洗って食べようか」


スザクは冷蔵庫の野菜室から苺を取り出し、ボウルに入れて水ですすぐと、一個摘んで私に差し出す。
手で受け取ろうとしたら、引っ込められた。


「何だよ」

「あーん」

「‥‥‥‥っ」


――昨夜の私と同じ事をしたいらしい。
朝っぱらから、何をさせる。
そう思いつつ、苺を口で受け取った。
チュッと指を吸う音が漏れる。
何だか恥ずかしい。
スザクも昨日、こんな気持ちだったのかな。


「‥‥美味しい?」

「ああ」


スザクも摘んで苺を口に入れ、ニコニコしている。

カッコ良かったり、妙に可愛かったり、優しかったり、強かったり、脆かったり。
やっぱりスザク以上の男なんて世界中探したっていないと思う。


「さて、片付いた。とりあえず一休みしよ」

「ああ」


二人でリビングのソファに座り『何をしようか』なんて言いながら、テレビをつけて天気の情報を観たり、窓の外を眺めたり。


「‥‥何か嵐の日って興奮するよね」

「は?別にしないよ。お前だけじゃないか?」

「そんなことないよー!危ないヤツ見るみたいな目で見ないでくれる?!」


他愛もない会話を交し、食事をして、またテレビを観たり。
沢山あると思われた時間はあっという間に過ぎ去り日は落ちた。


「じゃあ先にお風呂入って来る」

「うん」


タオルと着替えを持ち、リビングを出た。

あっさり1日が終わってしまった。
大好きな人との時間って何でこんな風に早く過ぎちゃうんだろ。

もう、風呂に入ったら寝るだけか。





今夜もお休みのキス、してくれるかな


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