ジグザグ片想い
 

さっきまで、落ち込んでたのが嘘みたいに、劇的ハイテンションだ。

意識してないと、顔が勝手に笑ってしまう。
不審者か。

ああ、私は本当にスザクに
兄に恋をしているんだな。

いけない、と思いながら
分かっていながら――、

嗚呼、それでも許してくれと
誰かに乞い願う。


口に出さなければいいだろう?

胸に止めておくから
片想いでいいから

…それもダメなのだろうか。



 *



「カレンのヤツ今日はあんまり絡んでこなかったね。…どうしたんだろ」

「…そうだな」


朝、カレンの分も弁当を作ってきた事をメールで告げた時は喜んでいたのに昼休み、屋上には彼は現れなかった。

お陰で、スザクが二つ共弁当を食べる羽目になったのだ。

いい、と言ったのに、

『大丈夫、ルルーシュが作ったご飯ならいくらでも食べれるよ』

なんて。

スザクは他意なく無意識に、且つ無意味に人を喜ばせて、ある意味悪質だ。タチが悪い。


「どうしたの?ルルーシュ」

「な、何でもない!」

「えっ、なに怒ってるの…?」


帰りの電車の中も、他の乗客から私をかばうように立っていて。
いちばん傍にお前みたいな兄がいて、他のどんな男を好きになれというのだ。


スザクには、好きなヤツがいるんだっけ?

好きなヤツがいるのかと質問したら『内緒』って言ってたもんな。

『内緒』って事はいるけど、教えられない、っていう意味だろ。


「‥‥スザク」

「なぁに」

「お前、好きなヤツいるって言ったよな」

「えっ!?あっ…うん。…でも…一生僕の片想いかも」


片想い、か。
私と同じだな。
誰かに片想いしてるスザクに、片想いしてる私。


「…私もだ。寂しいな。…でも無理に他の誰かを好きになって両想いになろうとするよりも、報われなくてもいいから、その人を好きでいたい…」

「…うん、同感」


スザク程の男に想いを寄せられてるのに気づかないなんて、何処の誰なんだろう。

馬鹿な女だ――。



電車を降りて、駅、商店街を抜け家までのなだらかな坂道をスザクから少し遅れて歩く。

道に細長い影がのびて。
そっと手を伸ばすと、手を繋いでいるように見えるスザクと私の影にほんのり胸がときめいた。


『僕の女に手を出すな!』


思い出しては、顔が熱くなってしまって、どうしようもない。

今日は1日、スザクの過激発言に頭を支配されそうだ。

しかし、本当に危なかった。

あの上級生にファーストキスを奪われるのは悲し過ぎる。

スザクがいい、なんて贅沢は言わないから。

そりゃ、ホントは『スザクがいい』と声を大にして言いたい所だが。

おやすみのキス!とか、主張しながら、ごく自然にやってしまうとか。

…そんな習慣今まで無いのに、いきなり、おやすみのキスか。
ごく不自然だろ。


「ごちそうさま」

「…ごちそうさまでした」


ご飯を作る時も、食べる時も、風呂に入っても私の頭の中は『スザク』で隙間なくビッシリ埋め尽されていた。


「じゃあ僕もお風呂いただくね」

「ああ」


無意識にスザクの唇に目がいってしまう。

私、もう重症だ。


ソファに身を沈め、テレビをつけてニュースを観てみたが、どんな事件も話題も頭には入ってきてくれない。


『ブルルル』


溜め息をついて天井を仰いだ時、携帯が震えた。


「‥‥カレンだ」


『認めたくはなかったけど、君を幸せに出来るのは、スザクだけかもしれない。君のために――君の事は諦めます』


「カレン‥‥」


ありがとう‥‥
そして、ご免なさい。

相手に気持ちが届かない事って、もどかしくて切ないな。

人を好きになったり、なられたりと皆、同じ想いをしてるんだろうか。

無器用だ、もの凄く‥‥


『ガタン』


スザクが風呂から出てきた‥‥!


カレンからのメールだったり、今日の回想だったり、妄想だったり、何かスザクと顔を合わせるのが気まずい原因が盛り沢山な感じで、私は思わずソファの上で眠ったフリをしてしまった。


「‥‥ルルーシュ?」

「‥‥‥‥」

「こんな所で寝てたら風邪ひくじゃないか」

「‥‥‥‥」

「ねぇ、苺は?」

「‥‥‥‥」


いちご‥‥!


「今日も食べそびれちゃった‥‥」


そういえば、昨日スーパーでスザクが苺を買ってくれたっけ。

思い出したら食べたくなってきたじゃないか。


「‥‥仕方ないなぁ」


そういい溜め息をひとつつくと、スザクはテレビの電源を切り、そっと私を抱き上げて居間を出て、部屋に運んでベットに寝かせてくれた。


「‥‥おやすみ、ルルーシュ‥‥」

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」


‥‥??


「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」


スザクのヤツ何をしている!?
この妙な間は何だ‥‥!!?


用は済んだ筈なのに、スザクの気配はなくならない。


閉じた目がピクピクしてきた。

狸寝入りのボロが出る前に早く部屋から出ていって欲しい〜‥‥!









!!!!!!!????



「‥‥っんあっ!!」


慌ててスザクはベットから離れ、あちこち何処かをぶつけるような音を鳴らし、つまずきながら私の部屋から去って行った。


「‥‥‥‥」


唇にはまだ、あたたかくて柔らかく、少し厚いスザクの唇の感触が残っている。


「おやすみの‥‥キス?キス‥‥!!」


思考回路がショートしそうだ。

どういう事だ、今日からそんな習慣をスタートさせる気なのか。


よし、いいだろう‥‥!!!



受けて立とうじゃないか‥‥!!


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