後一歩、されど一歩
 

 2限目が化学じゃなければ、休み時間もルルーシュの所に行けたのに。

化学室に移動して実験用具の準備をしなきゃいけないなんて、タイミングが悪い。

ルルーシュの元に飛んでって、この気持ちのわだかまりを、誤解を早くほどいてしまいたいのに。

押し付けられ仕方なく渡した手紙の所為で、僕がルルーシュとカレンをくっつけたがってる、みたいに思われては堪らな過ぎる。


やはり、化学室へ移動の途中にルルーシュの所へ寄っていこうか。


教科書やノートに、筆記用具を持って教室から廊下に出た時、憎きヤツの背中を見つけ僕は立ち止まった。


「カレン…!」


呼びとめると面倒臭そうにコチラを向く。
何を言われるのか、おおよその見当はつくのだろう。


「…何だよスザク」

「何だよじゃない!お前の所為で俺とルルーシュは――、」


廊下の窓越しにカレンを追い込み、睨んだ時だった。
カレンの肩越しに見え、僕の視界の端に映った景色の中に――


「ルルーシュ…!?」


複数の男達に囲まれ校舎の壁に張りつけられるルルーシュが見えた。

動揺する僕に反応して振り返り、カレンも目撃する。


「ルルちゃん…!」


ルルーシュの身を案じ、窓を開けて身を乗り出す僕の横を離れカレンが階段をかけ降りていった。

今から急いで階段を降りてルルーシュの元に辿りつくのに、どれだけの時間を要するのか。

額に汗が伝う。




 *




カレンは階段を下り、2階の踊り場辺りで危機を知らせにスザクの元に走ったシャーリーと出会った。


「カレンくん!あ、の、ルルーシュが」


スザクに知らせるつもりだったが、ルルーシュの一大事だ。
相手を選らんでる余裕はない。

事情を説明をしようとするシャーリーの肩をカレンは落ち着かせるようにポンと叩き、頷く。


「知ってる、ルルちゃんがピンチなんだろう?急ごう!」

「うん…!」


シャーリーと合流したカレンは再びルルーシュの元に向かって、階段を下った。



 *



「ルルーシューー!!!」


名を叫ぶとルルーシュは、顔をあげる。


「スザク…!」


今すぐ助けに行くから…!


僕は窓をくぐり、狭い足場を注意しつつ足早に移動する。
三階から転落すれば、軽い怪我では済まない。

打ち所が悪ければ最悪、死ぬかもしれない。

でも身体能力には自信がある方だ。迷いはない。
頑張れば何とかなるはず。

だってルルーシュを守るって約束したから。

次の足場は、校舎と校舎を繋ぐ一階の渡り廊下の屋根だ。

少し高さがあるが、躊躇ってる暇はない。

僕は思い切って飛び降りた。


『ガゴン!!!』


物凄い音を響かせて、渡り廊下の屋根を固定したビスがいくつか飛び、着地の衝撃を物語る。

かかった重力に足が痺れた。
が、痛いとか嘆いてる時間は無い。

僕は渡り廊下の屋根から地面に着地し、ルルーシュのいる校舎の影に走った。

まさか、三階から飛び降りてくるとは思わなかったらしく、ルルーシュを取り囲んだ男たちは硬直している。

取り合えず、僕はルルーシュの前にいる高校生らしからぬ顎ヒゲを生やした男の襟首を引っ張り掴んだ。


「…僕の女に手を出すな…!!」


僕の怒号で、ビシッと辺りの空気が固まる。
怯んだ男は謝罪の言葉を漏らした。


「す…、すいませんでした…!」


襟首を掴まれた顎ヒゲ男はブルブルと僕の手に感触が伝わるくらい震えている。

解放してやると男は、地にくずれた。
ふん、他愛もない!

仲間を引っ張り起こし、男たちは甲高い奇声をあげながら手を取り合うよう走って逃げて行った。


「ハァァ…危なかったぁ‥‥無事?ルルーシュ」

「そりゃあ、お前の方だ…!三階の窓から出てきて飛び降りるなんて…!どうかしてる!」

「だって、ルルーシュが心配で……ゴメン」


ルルーシュは涙を堪えるように唇を噛んでいる。
僕が謝ると首を横にブンブン振った。


「嘘だ…本当は凄く嬉しかった。…こっちこそゴメン、心配かけて。…助かった。アイツにキスされなくて済んだし」

「キス…!?」

「だから、大丈夫だったってば。ありがとうな」


危なかった…!
形振り構わず突っ込んできて良かったよ…!!


「…ううん。…ずっと君を守るって約束したからね…?」


ルルーシュは薄く笑って、コツンと僕の肩に額を当てる。
薫るシャンプーのにおいに僕の心臓は高鳴った。


「…『僕の女に手を出すな』って。『僕の妹に手を出すな』じゃないのか」

「‥‥‥!!!」


思わず、口から出てしまったんだ…!

ルルーシュはクスクスと笑い、甘酸っぱい空気が漂って自分の頬が熱くなるのがわかる。
僕は慌ててその場を取り繕おうとした。
が、


「…わかってる。アイツらが二度と私に寄って来ないように言ってくれたんだろ?ありがとう」

「う‥‥‥、あ、いやその‥‥‥」


‥‥素、‥‥でした‥‥。

ただ心の叫びが口から飛び出しただけで、そんな深く考えた言葉じゃないのに。

買いかぶりだよ、ルルーシュ…

体中の毛穴から汗が噴き出すような感覚に襲われる。
恥ずかしいー…!!

心の中だけでも恋人でいたいんです、
そんな本音なんです、
なんて今更ルルーシュには、言えない。

本当、こんなお兄さんでゴメンね‥‥!!

でもファーストキスも、欲しいや。ゴメンなさい‥‥!!


だから切実に、他の男は近づけたくない。

僕を見つめるルルーシュの潤んだ紫暗の瞳に、テンションが加速していく。


「ねぇルルーシュ‥‥さっきの続きだけど、僕は絶対に君とカレンをくっつけようとなんかして無いから‥‥!無理矢理カレンに手紙託されて仕方なくて‥‥だ、だって僕はルルーシュを――」

「大丈夫ー!?ルルーシュ」

「あ、」


砂利の上を駆けて寄ってくるカレンとシャーリーに、僕は言い分けと告白を諦めた。

ああ、また後少しの所で――。

今なら勢いに乗って言えそうだったのに‥‥
妹として以上にルルーシュを、


「‥‥わかったよ、スザク。でも、『ずっと傍にいて守る』って約束‥‥いつ解消してもいいからな。お前の重荷にはなりたくないから‥‥」

「‥‥そんな日は来ないから。ルルーシュこそ僕が鬱陶しくなったら言ってね?」

「フンこっちこそ、そんな日が来るわけないだろ‥‥!」


後一歩の所で――‥‥


‥‥まぁいいか。
仲良し兄妹には、戻れたんだし。

まぁ、いいさ‥‥



‥‥カレンとシャーリー、もうちょっと後に来てくれれば良かったのにな‥‥




本当はモヤモヤだよ…!


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あきゅろす。
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