お前でなきゃダメなんだ
――例の如く、授業どころではない心境だ。
ただ、ハイだった昨日とは逆で、気持ちは酷く沈んでいる。
スザクが、あんなに気を乱して感情をぶつけてくる事なんて滅多にない。
と、いうか――初めてではないだろうか。
だから動揺してしまって。
出会ってこれまで、常に私に優しく穏やかに接してきたスザク。
それが
何故だろう?
カレンからラブレターを預かってきて私につきつけて、キューピット役になったかと思えば、カレンと私が懇意になるのは許せないと絡んできた。
何が気に入らないんだ。
一体、私にどうしろと言うんだ。
‥‥スザク、お前の事が分からないよ。
*
チャイムが二限目の授業の終了を告げた。
化学室に移動するからとスザクのヤツ、この休憩時間は来ないと言っていたか。
「はぁ…」
窓から見える景色をひとりぼんやり眺める。
どうしてこんな面倒な事になったんだろうか。
ずっとスザクと二人、仲良くやってこれたのに。
幸せだったのに。
そう、いつまでも、どこまでも
一緒にいけると思ってた――。
「ルルーシュ」
顔を上げると悲痛な面持ちでシャーリーが立っていて、無理に笑顔を浮かべると彼女も薄く笑い、前の空席に座った。
「どうしちゃったの?スザク兄さんと…」
さっきの休憩時間の教室内でスザクとの口論を聞いてしまい、心配しているらしい。
だが、
「…私にも、わからない」
シャーリーは腕を前に組んで、深い溜め息をつく。
別に何も隠してるわけではなく、それが事実だ。
「昨晩スザクがカレンから預かってたラブレターを渡してきて…」
「カレンからのラブレターをスザク兄さんが?!」
シャーリーは驚いて、聞き返す。
「…スザク的に私とカレンをくっつけたいのかと思って」
「…ん〜、そう取れない事もないけど…。さっきはそんな感じじゃなかったね?」
「…ああ、だから分からない」
スザクと何時までも一緒にいられると思い込んでいた。
シャーリーに『兄妹』であるが故に、それが叶わない事だと知らされるまでは。
そしてまるで、巡り合わせたようにスザクにカレンの恋文を渡されて、背中を押されてる気になって。
終焉の時が来たのだ、と悟った。
スザクが私にカレンを選ぶ事を望むのなら、と促されるまま進む事を決めた。
「生涯私が添いとげるパートナーが、スザクでないなら…もう私は誰だっていいと思ったんだ。酷いだろう?スザクが望むならカレンを選ぼう、と。カレンには失礼な話だ」
「ルルーシュ…そんなにスザク兄さんの事――…でも兄妹じゃどうしようもないよ」
「…そうだな。兄妹だもんな」
兄妹だから。
そう、私はスザクの妹。
何処までいったって恋人にも、奥さんにもして貰えないんだ。
心の何処かではきっと分かってた。
だから寂しくてずっと、スザクを『お兄ちゃん』と呼べなかったんだ。
「…せめて少しでも血が繋がってたなら、私とスザクは兄妹でいられたんだろうか…」
いや、血が繋がってたとしてもきっと、私はスザクを――…
「えっ?!スザク兄さんとルルーシュ、片親分も血が繋がってないの?!」
「?…繋がってない、が」
びっくり顔で椅子から立ち上がるシャーリー。
おかしな沈黙で顔を見合わせていると、いきなり横から肩を掴まれた。
「君、枢木ルルーシュちゃん?」
「え?」
見覚えのない男だ。
制服を着崩し、頭も素行も悪そう。
校章の横にV-Cのピンが付いてる。スザクと同級生か。
クラスは違うようだが。
「…三年生の輩が私に何の用だ」
「ははっ噂通りのクールビューティーだなぁ。用があるのは俺の友達なんだ。ちょっと来てくれない?」
「…!!」
「ルルーシュ…!」
男に腕を掴まれ、引きずられるように廊下に連れ出された。
仲間らしい数人が待っていて、私のもう片方の腕を掴む。
心配気にシャーリーが、私の後を追い掛けて来た。
「私、スザク兄さん呼んでくる…!」
走り去るシャーリーとは逆の方へ引きずられ、渡り廊下へ出て、屋外の校舎の陰へと連れてこられた。
壁際に、冴えない男が一人つったっている。
つき出すように押され、取り合えずは両脇を解放された。
「連れてきてやったぞ、玉城」
「みっ、みりゃ分かる!」
コイツか。
私に用があるヤツは。
「‥‥私に何か用ですか、先輩」
「お、お、俺とメルと、メル友になってくれ…!!!」
どんなけ噛みまくりの、ドモリまくりだ。
高校生の癖に不精髭なんか生やして…いや生やされてるといっても過言ではない。
兎に角、完全に見掛け倒しタイプだ。
…パスだな。
「…お断りします。休憩時間も終わるんで失礼する」
「待てよ!そっちに無くても、こっちにはまだ用があるんだよ!!」
「っ…!」
再び両方の腕を掴まれ、動けない。
ふりほどこうとしたが、数人の男に押さえこまれ、校舎の壁にはりつけられた。
「は、離せ…!」
「玉城〜今のウチにキスしちゃえよ!」
「このデカイ胸も触っちゃえって!」
「えっ、いいのかな!?」
「いいわけ無いだろ‥‥!!!!」
冗談じゃない…!!
スザク…っ!!!
スザクじゃなきゃ誰でもいいなんて言ったけど、コイツは勘弁してくれー!!
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