◆幸せな最期【後編】/スザルル
 
ルル死亡END/後編/シリアス
スザク視点

***





幸せな最期






「スザク…っ」



潤んだ紫の瞳で僕を見つめ、彼は僕の首に腕を絡める。
露になった透けるような白い身体は、この世のものではないくらいに綺麗で。

切なさに潰れそうな胸を抱えながら僕は狂ったように、夢中で彼を求めた。

言葉にできない気持ちも全て、ルルーシュに伝えたくて。



だけど




「ありがとう、スザク…最後にこうしてお前の温もりに触れられて、…嬉しかったよ」



果てて、深呼吸を数回し息をととのえて身体を横たえながら彼は笑いを含みながら言った。


(…最後…か)


無力感に黒く塗り潰されそうになりながら、気だるい身体を投げ出し、ベットの上で僕は瞼を閉じたままルルーシュの声に耳を傾けて。


(――…ダメだったんだ)


何て返事したらいいのかも、もう分からない。

眠ったフリをする僕の額にくちづけて、ルルーシュはベットを降りた。



「…お前は本当に優しいヤツだ」


(優しい…とかじゃないんだ、ルルーシュ)


「…愛してるよ、スザク。おやすみ。…明日、処刑場で会おう」



 愛――…。


(…足りなかったのかな…結局、僕の想いは)



「…イエス、ユア マジェスティ…」



――僕だって一緒だよ。
ああ、君とだったら何だってできる。



せめて、痛みを感じないように、苦しまないように君を殺してあげるよ。




そして




君を送った後 僕も逝くから。

ルルーシュが贖罪を求め、死を貫くというなら
僕だって、贖罪を求め、死を貫く。




決意して、僕は運命の朝が来るのを眠らずに待った――。












ゼロレクイエム



運命の日を迎え終結に向けて、僕はゼロの仮面を被り衣装を纏って右手に剣を携え、罪人を裁くパレードの先頭に立つ魔王を目指し走った。

護衛の攻撃をかわし、ナナリーの横をすり抜け、容易くルルーシュの元に辿りつく。




「…撃っていいのは撃たれる覚悟のあるヤツだけだ」



薄い胸を、剣は簡単に貫いた。
白い服がルルーシュの血に染まってゆく。




「…救世主…ゼロ…」



最期を迎える時まで、彼は笑っていた。

そして、僕の涙に気づいたのか寄りかかりながら力なくも優しく抱きしめて、血に濡れた手で仮面越しの頬に触れる。



「…ルルーシュ…っ」

「……これはお前にとっても罰だ…お前は正義の味方として仮面を被り続ける…枢木スザクとして生きることは…もうない…人並みの幸せを全て世界に捧げて貰う……永遠に」



――!!






(…君は全部、僕の考えはお見通しなんだ)


『欲しがってた罰をくれてやる』
とでも言いたげに、ルルーシュは僕を見る。


(…ずるいよ、ルルーシュ)


君は僕に後を追う事さえ赦しては、くれないんだね。


また僕に『生きろ』のギアスを――




「――そのギアス、…確かに受け取った」







『死にたがり』




そう、ずっと僕は僕を殺したかった。
父を殺した僕は、死んで罪をあがなうべきだと。
生きている事の罪悪感にさいなまれ続けた。

けど、きっと

僕は死にたかったんじゃなくて、死ななくてはいけないと思っていた。

本当はきっと生きたくて、でも生きてちゃいけないって苦しんでいたんだ。

君はそれに、気づいてくれてたんだね。


でも
今は、君と逝きたかったんだよ。

どうせ、それには気づいてないんだろう。


君はとても優しい魔王だった
と、なると僕は悲劇の英雄ってとこかな


君の優しさは
自分を切り刻んで犠牲にして
皆に分け与えられていった

そして最後、使い果たして
君は なくなった



――それで君は満足なのかい?


僕は――…‥












ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは悪逆皇帝として、救世主ゼロに討たれ18年という短い生涯を閉じ、永き眠りについた。


その素顔をほんの一握りの者にしか見せないまま、ルルーシュの望んだ通り『枢木スザク』の名の刻まれた墓の隣で静かに――。











「あの、ゼロ…お兄様のお墓に御参りに行きたいんですが、連れてって下さいませんか?」



彼がこの世を去り一週間、世界は当たり前のごとく動いている。
ルルーシュの刻は止まろうとも、時間はとどまる事はなく。
僕も躊躇いながらもゼロとして生きる事が、日常となりつつあった。

だけどそれは、彼の死を受け入れたわけではなく、視界に入れていなかっただけの事だ。
ルルーシュの墓の前に立てば、受け止めざるをえなくなる。


「ダメ…ですか?」

「…いえ」



ずっと避けたままではいられないし、他の誰かにも頼めないのだろう。
ナナリーの申し出を断れず承諾し、僕はルルーシュの墓の前に立つ決心をした。


(大丈夫、振り向いたりはしない)


彼からのギアスを、願いを受け取ったのだから。




柔らかい草の上で進み辛い車椅子を力ずくで動かし、小高い丘にある僕の名と彼の亡骸が眠る地にたどり着いた。
ナナリーは、花をたむけ手を合わせる。

僕はナナリーの後ろに立ったまま、ボーッと彼女の肩越しに見える十字架を眺めていた。




「お兄様が最期に着ていた服や帽子の装飾石をネックレスにして貰ったんです…私の分とお兄様の分。そしてスザ――、ゼロにも」

「……私…に?」



ルルーシュが最期に身につけていた服を飾っていたエメラルドの石のネックレス。




「はい。…お兄様を愛してくれてありがとうございます」

「――僕が…ル ルーシュを…?」

「はい」


ピタリと一瞬、時間が止まった気がした。



ああ そうか
僕はルルーシュを――


優しさではない
痛いくらいの執着と依存の正体


点と線が繋がって、バラバラだった何かがひとつの答えに行き着く。
でも、もう遅い。



「…ルルーシュには届かなかった」



君が『愛してる』と言葉をくれた時に、僕も『愛してる』と伝える事が出来たなら君を止められたのだろうか?



「…泣かないで下さい、スザクさん。そんな事ありません。お兄様が息を引き取った時…私はとても寂しくて悲しかったけど、だけど…お兄様の表情は安らかで…とても幸せそうでした」

「幸せな死なんて有り得ない…!」

「…そうですね。でも幸せな最期だったのだと思います。…スザクさんのお陰です…ありがとうございます」

「ナナリー…君の最愛のお兄さんを殺した僕を許してくれるの?」

「許すもなにも…ありません。お兄様が望んだ事を叶えて下さったんですから。私、お兄様が命をかけて壊したこの世界を、お兄様が望む優しい世界に創ります」

「…私も全力を尽しましょう。…いつかこの地で、ルルーシュの隣で眠りにつくその日まで」

「…私もいつか眠りにつく日は此処へ。それまでは寂しいかもしれませんが、待ってて下さいね、お兄様」



ペンダントを握りしめ、僕たちは誓い墓場を後にした。






――会える日まで おやすみ



その時は君に愛してるってたくさん言うから


前向いて歩いて行くよ



でも
ルルーシュ

どうしても君の温もりが
恋しくて寂しくなった時は
少しだけなら泣いてもいい…?

このペンダントを握りしめながら
少しだけ

君はまた
笑うのかな?
『泣き虫だな』って



静かな夜の優しい光を放つ月に

君の面影をしのびながら――





 

 

 

 

 

 

 

 


この世に
永遠という奇跡が存在する

人は生まれ いつか死に
出会いと別れを繰り返す

この想いをギアスという
願いの翼にのせて

いつかまた
僕と君が出会えるように


早く、君に会いたい

傍に行きたい



僕は、必ず辿りついてみせるから、



『君の待つ明日』へ









Fin.



***


08'10.13

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あきゅろす。
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