◆幸せな最期【前編】/スザルル
 
R2-25話捏造
ルル死亡END/前編/シリアス
スザク視点

***






幸せな最期






「スザク、約束通りお前が俺を殺せ」



自分たち二人以外誰もいない皇帝の玉座の前で、ルルーシュは何の躊躇も迷いも無く、サラリと血生臭い言葉を口にした。

思惑通りに事が運んでいるとアメジストの瞳を輝かせた面差しは嬉しそうにさえ見える。
僕は、何故かそれが堪らなくて。


あの日、

ルルーシュが皇帝に即位したあの時から計画は
『ゼロ レクイエム』は動き始めたのだ。

ルルーシュからゼロレクイエムの計画を聞かされ、僕は彼の騎士になる事を決めて、ひたすらに目的のために戦ってきた。

僕はユフィの仇を討てる。
そして、世界は優しい明日に向かう。
望みが叶うのだ。


――なのに

    …だけど


ルルーシュの最期が近づくにつれ僕の心は波立って、迷いが生じはじめていた。



「…やるのか…どうしても」



僕は思わず、憂鬱でモヤモヤとした気分のままに渋った反応をしてしまって。

するとルルーシュは一瞬驚いたような表情を見せたが、僕に再び言い聞かせるように『予定通り』と自分が世界の人々の憎しみの的になっている事、自分が消えて憎しみの連鎖が断ち切れる事を誇らしげに話しながら、ゼロの仮面をコチラへ差し出す。

手を延べ仮面を受け取ると彼は頷いて、また微笑んだ。


(…そうだ。Cの世界で僕とルルーシュは人々が明日を求めている事を知った…でも)

――『明日が欲しい』と
一番に望んでいたのはルルーシュだった。

念じた瞬間、片目だったギアスが両目になったのだから、余程の強い思いだった筈だ。

(明日を欲しがった君が、人々の明日のために自分の明日を笑顔で差し出すなんて…)

複雑になるのは当然じゃないか。



「なぁ、スザク。願いとはギアスに似てないか」

「えっ?」

「自分の力だけでは叶わない事を誰かに求める」

「願い…か」

「俺は人々を願いという名のギアスにかける。世界の明日のために」



優しい世界を作っていってくれと、と皆に願い、託すという意味だろうか。



「…ルルーシュ…」



穏やかに話すルルーシュを見ていると、切なくなるばかりで。

君は望みを犠牲にする事で、自分に対する罰として受け止め
贖罪としての『死』に感じているのは、安らぎか。…諦めか。



「やはりダメだ、『死』は僕が背負うべき、贖罪だよルルーシュ」


「……スザク、お前は優しいな」



志半ばで立ち止まる僕に少し悲しそうに眉を寄せ、それでもやはり笑みを絶やさぬままルルーシュは言う。



「…そんなんじゃない。…優しい、なんてそんな言葉でかわすなよ」

「枢木スザクは死んだ。贖罪は済んだんだ。もう過去の罪は背負わなくていい。死ぬのは俺だけでいいんだよ」

「……ルルーシュは、ずるいよ…!」

「…ああ、…俺はずるいんだ」
「……」

「9年前、お前をひとりにしなければ…傍にいれたら、そんな十字架を背負わす事もなくて済んだかもしれないな……悪かった」

「ル、ルルーシュ!僕の罪まで背負おうとするな!」

「だったら、もう気に病んでくれるな」

「っ」



(本当に君はずるい。…それに)


…――優しいのは君の方だ。




望む答えがルルーシュからは得られなくて、
僕はうつ向いたまま顔を上げられず首を横に振り意思表示するだけで精一杯で


作り笑いさえ彼に返せなかった。





 *





運命の日がいよいよ明日に迫り、僕は自室でひとりゼロの仮面と向かい合っていた。


(明日…この仮面を被り、僕はルルーシュを――)


手にしたゼロの仮面は、僕が今まで持ってきた物で何よりも重く冷たかった。



「英雄、ゼロ…」



圧倒的な力により虐げられた弱い人々の、希望の光となった英雄ゼロ。
築いた伝説の影にはたくさんの犠牲、血と涙を流してきた。

ユフィの、クロヴィス殿下の、その他の人々の。

僕やナナリー、そして彼自身の。

英雄どころか、寧ろ僕にとってゼロの仮面は裏切りや憎しみの象徴でしかなかない。

(それを僕に被れというのか、君は)



「…この『ゼロ』という仮面が、僕から君を見えなくしたのに…」



ゼロの
この仮面を初めて被った時から、ルルーシュの覚悟は決まっていたのだろうか。
それとも、もっと前?

何度も立ち止まり振り返りながらも、
きっと無器用な彼は自分がいなくなる明日に向かってしか、走る事ができなかったんだ。



「ルルーシュ…」



明日になれば、こんな物が彼の残した唯一の形見となってしまう。



「ゼロが残る…?僕が殺したかったのはルルーシュじゃなく、ゼロなのに?!」



仮面を捨ててしまいたい衝動が胸にわいて。

(――…壊してしまえば、ルルーシュの死を先延ばしできるかもしれない)


気が付けば僕は、どうにかしてゼロレクイエムを止めなくてはいけないと、
ルルーシュを思い止まらせようと焦りはじめていた。


執着なのか
依存なのか


ルルーシュに対する気持ちの正体は分からない。
けど。
彼が居なくなる事が、考えられなかった。


ゼロはルルーシュで

気高い理想を持ち、ナンバーズである僕を受け入れ理解し、騎士にしてくれた主、ユフィを惨殺した仇だ。


(だけど…!)


僕はゼロの仮面を持ち上げ、床に叩きつけようとした
――その時


『コンコン』


「!!」



ドアを叩く音に、タイミングを外され腕を下ろしあぐねた僕の前に彼は現れた。



「な にしてるんだ…?」



ゼロの仮面を頭上に持ち上げたまま、一時停止してる僕を見てルルーシュがポカンと口を開けている。



「壊すんだ…!ゼロレクイエムは終結を迎える事なく、終わる」

「ばっ、馬鹿」



僕とルルーシュはゼロの仮面をめぐり揉み合い、バランスを崩してベットに倒れ込んだ。ゼロの仮面は床に転がり、壁に当たりカシャンと音をたて止まる。



「俺を殺したかったんだろう!躊躇なんかしなくていいんだよ、スザク」

「違う…そうじゃない…っ」



――僕はゼロだったルルーシュを、許してはいけなかった。

(でも、…許したかった)

この手で彼を討たなくてはいけなかったのだって、

(僕が討たなきゃ、他の誰かに討たれてしまうから…誰かにルルーシュを殺されるくらいなら、)

――僕が、殺したかったんだ。



「……泣き虫だな、おまえは」



ルルーシュはそう言いながら薄く笑って、僕の頬を伝う涙を優しく指で拭った。
そして、いい聞かせるように言葉を続ける。



「俺とお前で、力が全てのこの歪んだ世界を壊し、ナナリーが皆に優しい世界を創る。そう、明日を…俺たち3人で夢と理想を現実にするんだろ?そのために頑張ってきたんじゃないか」

「無理だ、足りないよ!君がいなきゃ――」

「シュナイゼルがゼロの云う事を聞く」

「ナ、ナナリーはどうなるんだ、君がいない明日を彼女は」

「ナナリーならもう大丈夫だ…もう俺がいなくても自分でしっかり立ってるよ」

「でも…、だけど…それじゃ君が望んだ…欲しがった君自身の明日はどうなるんだ…!欲しかったんだろう?!」

「俺の望む明日…か」



思い止まらせるためにどんなに言葉を浴びせても尽く返され、最後にぶつけた僕の叫びにルルーシュが目を伏せる。
やっと彼を説得できる糸口が見つかった、と安堵しそうになった。

でも――



「…じゃあ俺の骸はカラのお前の墓の横に埋めてくれ。お前の名前と眠りたい。それが俺の望む明日だ」

「ル ルーシュ…っ」



どうあってもルルーシュの想いや決心や覚悟は固く、揺るがない

それを知るだけだった。


(――嫌だ…!!諦められない…!!!)







「好きなんだ、ルルーシュ…!今も君のこと好きだから…だから」

「スザク…ありがとう」

「だったらお願いだから」



僕が切実に頼んでも、ルルーシュは横に首を振る。



「…俺たちは…もう止まれない…」

「たったひとりで…この細い肩に、どれだけの罪と罰を背負うというの?!」

「ひとりじゃない…お前と一緒だから、ここまでやってこれた」

「…ルルーシュ…」





そっと彼の唇に唇で触れると、懐かしい柔らかさと温かさが伝わってくる。

ルルーシュの存在を
心も身体も、僕に繋ぎ止めたい。
想いの溢れるままに、僕はルルーシュを抱いた。





君のいない、明日なんて


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あきゅろす。
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